向井はアメリカ人のように軽く肩をすくめた。そして「言ってしまってもいいんですか?」と落ち着き払った口調で言う。
「ああ、はっきり言ってみろ」
「さっさと潰れろ、バカ雲印」――戸梶圭太「牛乳アンタッチャブル」
一年以上も放っておいて申し訳ない。筆記試験終了のテンションのママ、一気に書き殴りたい。最近、私の生誕した日の新聞が気になり、図書館で探してみたら、アメリカ合衆国のレーガン政権のベイズ国務長官が「ソ連との戦争を辞さない」という記事だった。レーガンは悪の帝國よばわりしたからな。夕刊は「雪国でも 共通一次無事終了」と言う内容の一面記事であった。朝日新聞がかつて「あなたの誕生日の新聞の複製を記念にいかがですか?」としけた商売をしていた記憶があるが、実際にゼニを払うとこのような興を削ぐ新聞を見せられることとなっていたのだ。買わなくて良かったと胸をなで下ろすばかりである。確かに生を受けた日の記事が「日経平均35000円突破」や「巨人最下位確定」「金丸信逮捕」とかまだ保存や複製購入の価値もあろうが、「国務長官ソビエトを批判」はいいが、特に「大雪で共通一次の受験生カワイソス」などという、その日に生をうけた人間の今後を暗示させるような禍々しいものでは価値がない。
そんなわけで私はもう少し受験人生は続きそうである。「もうちっとだけ続くのじゃ」という亀仙人の名言があるが、書いていて背中が冷や汗がしたのはなぜだろうか。ところで、私は何故、センター試験や国立大学の二次試験を新聞に掲載するのに、国家一種や国家二種の試験問題を掲載しないのは、不思議でならない。実際、試験問題のお持ち帰りを認めているのにである。たしかに、受験誌や予備校から問題文を手に入れられるが、なにか納得できない。だが今時、「公務員になって楽しよう」などというクソ生意気なことを抜かすガキが多いだろう。いやそんなことはないんですよと、某自治体の元嘱託職員はいっておこう。京大の試験問題を多くの受験生はみた瞬間に「受けても0点」を確信させるように、「こんな難しい問題を解けない。だからわたしは公務員にはなれない」と多くの人間が思ってもらわないと困る。って、「蜘蛛の糸」みたいなエゴイズムあふれる結論を書きつつ論を進めよう。
勿論、問題文をみて「なんだ簡単じゃん」と思われる方もかなりいるだろうと推測される。私も立ち読みで『受験ジャーナル』掲載のの国家一種教養を見て地理や世界史等は簡単に正答したのを覚えている。たしかに、数的推理や数学の問題は選択肢があらかじめ五つまで絞られている。高校入試などは、答えを自分で見つけなければならないのを考えると、明らかに簡単なはずである。しかし、そうは問屋が卸さないのが人生である。罠をしかけられている事を忘れてはならない。罠はなんであるか。今から挙げる過去問を見ていただければ、罠の正体をご理解いただけると思う。
図(省略)のようにA〜Dの4人が丸いテーブルに向かって座っている。いま、Aは5個のアップルパイが入った皿を持っているが、この4人は、次のルールで皿を移動させながら、アップルパイを取ることにした。
●皿を渡されたらアップルパイを必ず1個取る。
●皿のアップルパイを取ったら、1枚のコインを振り、表が出たら左隣の人、裏が出たら右隣の人に渡す。ただし、コインの裏表は等確率で現れるものとする。
●アップルパイがなくなるまで皿を渡し続ける。
このルールに従って最初にAがアップルパイを一個取り、その後コインの裏表に基づいて皿が移動するが、このとき、Cが最後のアップルパイを取る確率はいくらか。
1.1/5
2.1/4
3.1/3
4.3/8
5.1/2
(平成16年度 国家二種教養)
このような問題を数的推理と呼称する。省略した図は、丸テーブルでに四人が座るという平面図なので、無くても解けるだろう。感覚で「Aがかなり有利」なのはご理解いただけるだろう。以前ミクシィでこの問題をクイズ感覚で提出したとき、小助さんはこのようなコメントをいただいた。
「このシュールな状況は一体何なのだ。」
確かに。何故、アップルパイなのか。出題者の意図があるのか。それだけじゃない。この四人の関係は何だ。私は、ああこのAさんは子供で、子供に優先してあげようとする大人たちの気遣いなんやなあ、と考えた。我ながら自然な解釈だと思う。傷は浅く、それどころか正答に近づく発想である。これを、
「Aは取引先の課長でアップルパイがやたら好き」
という場面を想像すれば、あなたは正答から遠ざかる。周りはA課長は「アップルパイがやたら好き」なのを知っている。知っているから、どうやってA課長に多く食べさせるかを周りは考えた。おそらく呑み会のデザートなのだろう。A課長は、「別に僕に特別扱いしなくてもいいよ」などと言っているのだ。さて、周りは困った。ここで「世間の歯車」や「横暴な取引先」や「営業マンの苦悩」などという言葉を思い出し、おきまりの憂鬱に浸れば、それは試験時間を浪費させているに過ぎぬ。出題者の周到な罠にかかったのだ。こうは考えられないか。それを営業マンたちは機転を利かせ、問題文のようなゲームを編み出したのだ。公務員は行政サービスである。サービス精神のない人間が国家公務員になるのは困る、そんな人いりません、という人事院の熱い思いが、問題文の行間から滲み出ていないか。
このように、公務員試験には罠が存在する。もっと強力な例を挙げよう。
A、B、C、D、E、Fの6人が宿舎で4泊することになった。宿舎は2人1室で3室に別れており、4泊ですべて異なるペアで泊まった。宿泊したペアについて、A、B、C、D、Eは、それぞれ次のように語っている。
A 「2泊目にCと同室になった」
B 「3泊目はFと同室でだった」
D 「4泊ともBは同室にはならなかった」
E 「私が4泊目同室だった人は、3泊目はAと同室だったと言っていた」
このとき、4泊の宿泊状況について確実にいえるものはどれか。
1. AとFとは同室にならなかった。
2. BとEとは同室にならなかった。
3. 3泊目はCとEが同室だった
4. 1泊目はDとFが同室だった
5. 4泊目はDとFが同室だった
(平成11年度 市役所教養/C日程大阪府型)
判断推理の問題である。さて、あなたの思考はまずどこにいっただろうか。与えられた条件を処理するに至ったろうか。私は、この問題をみた瞬間に思った。
「何故ローテーションを組む必要はあるんだ」
さらに、
「これはスワッピングパーティか」
と考え、限りなく卑猥な状況に思考が飛んだ。前述したとおり、公務員試験は5つの選択肢の中から1つを選ぶテストである。ゴルフがドライバーだスライスだとなんだかんやいっても、規定数で球を穴に放り込む競技であるように。私の思考は、ティーショットからいきなりバンカー直行である。この六人は一体どんな集団だ。夜這いか通い妻の風習が残る村の青年団主催のハワイ旅行とかなのだろうか。なんということだ、人類皆兄弟か。思考は明後日の方へ行く。やはり、はじめは二人でテレビとか見ながら、お互いの距離をスリリングに詰めたり離れたりする時間を過ごすことになるのか。バドワイザーを飲みながら、背中にはうっすら汗が滲んだ。汗が臭うかな、と男は考えた。
「電気を消してもう寝ないか? いいよね?」
とかが合図なのか! いいなあ。各人の発言はなんであろうか。Aさんは二日目のCさんが印象に強く残るぐらい良かったとかそういう意味か! おそらく互いに「あの人とだけはイヤ!」と言う権利があったろうと推測できよう。Dさんは、狙っていたBちゃんと閨を共に出来ず歯ぎしりしている様が行間から滲み出てくるではないか。さらに他の男どもも「いやあBちゃん、あんなに激しい子とはおもわへんかったわ」とか言い出しているに違いない。いや、これこそ罠だ。DさんとBさんは同性なんだろう。Eさんは四日目の人に三日目のAクンの方が上手くて良かったわと言われて、泣き言をいっているのだろうか。もう読者の皆様もご理解いただけただろう。この問題の罠は何か。
「性別まで余計に考慮してしまう」
前述のように、毎日の苦しい問題演習でアタマが沸騰している受験生は、もうアレの事でアタマがいっぱいである。こうむいんになって女の子にもてるというはかない希望にすがって生きているのだ。人生一発逆転ホームランを狙っているのだ。この問題を読んだ直後、脳内にフランス書院もびっくりの酒池肉林ワールドが花開いたに違いない。性別の条件はない。でも性別まで考慮にいれないと結果は気持ち悪い。あとはこの問題に試験時間を浪費するのみである。残念なことに、公務員の性犯罪がニュースをにぎわす昨今である。公僕たるもの、下半身すら紳士淑女たれ、嗚呼人事院の叫びにもに似た意図を私たち受験生は胸に受け止めておきたい。最も、腐女子――いやボーイズラブものが好きなお年頃の淑女の――みなさまは「全員男子」と仮定し問題を解くなら、アタマの中に花が咲き乱れながらも正答にたどり着くかもしれませんが。
2005/11/16
※本稿とはあんまり関係ないけど、念のために正答を書いておきます。一問目選択肢5、二問目選択肢3です。
■最近五回の消防方来(新着順)
#017 ナベツネという装置 (2004/9/4)
#016 医は生けるネタなり (2004/5/9)
#015 昭和37年の面接の達人 (2003/11/24)
#014 経済効果とは何か (2003/7/14)
#013 駄目人間漁協組合 (2003/5/10)
[雑文一覧] [折々の雑文一覧]