トップ > ACT:1/BLOODY STORM > 第1章:発端
 鳴り響くサイレンの音と雑踏に紛れ、男は夜の暗闇の中に姿を消した。ハイ・テク化が進み、コンピューター管理された都市の影に残るスラム街─────。統一国家化され、国籍も意味を無くし、様々な人種の人々が共に暮らせる時代ではあったが、ハイ・テク化は人々に豊かさをもたらした反面、貧富の差をさらにつける結果になっていた。
 発展した都市の影にあるスラムは、その表れであった。また、ハイ・テク化はそれに伴った犯罪も著しく増加させ、警察は昼夜構わず頻繁に発生するハイ・テク犯罪に頭をかかえていた。
 スラム街の狭い路地に、深夜にもかかわらず、大勢が群がっていた。警察のエア・カーが何台もとめられ、深夜のスラムは明りと人々のざわめきで、騒々しかった。
 「どいた、どいた!なんだよ、この野次馬連中は!見せもんじゃねえぞ!」
 「あっ、警部、こっちです!…いやもう、お手上げですよ。今月に入って7件目。今度は一度に5人です」
 「5人だぁ?…ったく、犯人は何を考えてんだか」
 建物同志が所狭しと立ち並ぶ密集地の一角、澱んだ空気は血の匂いで一杯であった。
 「例のごとく、スプラッターです」
 「例のごとく、ねぇ…」
 無造作に散らばった、生々しい『元・人間』の残骸。辺り一面血の海と化したそこは、現場検証しようにも、気分の悪くなるものが続出している為に進んでいない。
 「おい、お前、どうしてガイシャが5人だとわかったんだ?」
 「アタマの数ですよ、警部。こんなぐちゃぐちゃな状態でも、アタマはかろうじて原形をとどめてますからね」
 「なるほどね。お前、出世するよ。─────一体、なんだろうなこの手口は。小型爆弾で吹っ飛ばし─────にしては現場はきれいすぎる。この状況じゃ、爆弾のレベルは建物の外壁を壊す規模はあった筈だし、その跡が無いってことはどうゆうことだろうな」
 「ほら、警部知りませんか?昔、映画であったでしょ、弾丸の中に超小型爆弾を仕込んで、ターゲットを狙うってヤツ。一人、二人ならともかく、そうでなきゃこれだけのことはできませんよ、おそらく」
 「…映画は映画だ。目撃者は?」
 「通行人と、間近にいたガイシャの仲間のチンピラどもが4人。話によると、犯人は男で一人だったということだけ分かったんですが、犯行状況については目撃者がショックのあまりに記憶が混乱していて、…さらにヤクもやってたりしたもんでして、あてになりそうもないんですがね。まぁ、スラムで起こることは大概、目撃者がいても役に立たないケースが殆どで…」
 「チンピラどもの、権力抗争の方との関連は?」
 「薄いですね。先日まで聞き込みしていた者達が言ってましたが、チンピラ達の間でも最近じゃ、もっぱらウワサだったそうです。『無差別』に殺やられて、誰が何の目的で殺るのか分からない…。仮に小型爆弾で吹っ飛ばしたにしても、犯人は─────チンピラだったら、その小型爆弾をどうやって入手したか…ってことになります。過去の似たようなケースの殺しを調べてみたんですが、マフィアがらみとか、企業がらみしかないんですよ…金が要りますから。島争いでこういう惨澹な見せしめをするなんて、前例に無いですね」
 「7件ともにスラムで起こってるし、ガイシャは全員チンピラだしな…。おまけに全員若者か。奇妙なもんだ」
 「文字どおり、『怪事件』ですよ。悪趣味な犯人の、残虐非道な仕業ってやつですね。あぁ、やだやだ!」
 「その…犯人という男はどんな奴だと?」
 「若い男で痩せ型、ということですが…」
 「若い男、ねぇ…。目撃者たちはどこに?」
 「こっちです、警部」
 エア・カーの影に警官に囲まれ、毛布にくるまったまましゃがみこんだ少年達は、歯の根も合わずにガタガタと震えていた。
 「やれやれ。…お前達、犯人を見たんだろう?…誰だ?見たことのある奴か、それとも他の地域から来た、よそ者っぽい奴か?」
 「けっ…刑事さ…んっ!俺…、お…れ、あんなの初めて…み、見たんだよぉ!」
 「ん?何だ、言ってみろ」
 「人が…ひと…が、ふっとんだんだよ、…破裂する…みたいに、爆発する…みたいに、ほんの一瞬、あっという間に…、俺達、怖くてェ…。すっげェ、怖くってェ…」
 背広の袖をきつく掴み、少年は必死に訴えていた。間近で目撃したのだろう、服にはおびたたしい返り血の跡がある。
 「…破裂…?」
 警官達の表情は、一斉に強張った。誰もが、その生々しい現場の光景とその状況の話に、身震いを覚えていた。
 「犯人は一人だった、といったな?」
 「そうだよ、…俺達のダチと一緒にいた…ヤツ…、知らねえツラ。…俺達、ここで待ち合わせしてたんだ。近くまで来て、…怒鳴り声したから、ケンカだと思って、走って来たら…、そしたら…、そしたらよぉ、ボン、ボン、って…人が…ああぁ…!」
 「ひぃいいっつ!…あああぁ!」
 脳裏に鮮烈に焼き付いたその光景が、再び鈍ましい恐怖感を掻き立て、少年達は金切り声に似た悲鳴をあげた。驚愕に目を見開き、身体は激しく痙攣し、口元は戦き、叫び声すら掠れている。見兼ねた警官達は彼等を取り押さえてエア・カーに乗せ、連れ去った。
 「…可哀相に、ありゃあ、クリニック送りだぞ」
 「惨すぎますよ、ホント。…犯人は、何が目的なんでしょうかね」
 「分かれば苦労しないよ、全く…」
 サイレンの音は、朝方まで止まなかった。そして、その日は一日中、スラムで起きた『連続殺人』のニュースで持切りとなった。

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