創作系同人誌サークル『SURRE(シュール)』
  
トップ > 風の迷宮(ラビリンス) > 第10章:終章
 彼等の姿を朝日が包み込む頃、ようやくジェイの涙は乾こうとしていた。執務室に入り、暫く無言であった彼等の中で、意外にも最初に口を開いたのは彼自身であった。
 「仲間を…ミレトスを探さなくちゃね」
 涙の跡を拭い、無理に笑顔をつくりながらカイに同意を求める。
 「ミレトス…か…」
 出かけ前にタウラスからミレトス衆の再編を任されたカイではあったが、これからミレトスと成り得る可能性…ミレトス衆として名乗りを挙げ、仲間を統率することの出来る立場にあるのは、今現在は自分とジェイ以外では考えられない。なしにろ、あのラフィンは今『敵』になっている…。
 「ミレトスを探すのは無理かもしれない」
 「そんな…」
 縋るような目をして父を見る。タウラスの表情は思っていたものより穏やかだった。
 「カイ殿は成人の儀の折りに、ミレトスとしての継承も受けられたとか」
 「はい。多少、他の者達よりも早い年で…。父が私が幼いうちに亡くなったこともありますし…」
 感慨深く思い出し、カイの言葉は少し詰まった。
 「継承の時、宝玉を受け取りませんでしたか?例えば、このような…」
 カイとジェイの目の前に左手を広げてみせる。何もなかった筈のその掌から、荒くカットされた大振りの澄んだ黄色い石が形を表した。思いも寄らない物体の出現に身を乗り出していた二人は驚きの表情を見せる。
 「ミレトスの証である『ジュエル・フォース』。ジェイ、これはこれからお前が継ぐべき物」
 カイは、はっ、として自分の胸元に手を当てた。彼の左胸から淡い光が生じ、見る見るうちに形を取り始め、その胸から血色にも似た六柱の石が姿を現す。
 石を握りしめた途端、彼は軽い眩暈と共に昔の幻影…過ぎし日の継承儀式が瞼裏に浮かんだ。
 『カイ、この石はお前の父より預かりし物。成人の暁に渡して欲しいとのことだったので…。これはミレトスとしての証、ジュエル・フォース…。術を使うお前の力に共鳴して増幅補正する。そして所有する者の意によって形を変えるというのだが…お前ならどの様に保持するか?』
 カルミアス王に問われた時、彼は迷うこともなく答えた。
 『父より受け継ぎしものは、すべてこの胸に…』
 彼が自分の胸に手を当てた瞬間、石は光を放ち彼の左胸へと吸い込まれていった。
 「これはあの時に!?」
 再び目にする石を目に、自分のことながら感嘆している。形こそ変わっているが、これは儀式の時の物と同じであることが分かる。
 それは共鳴。同じ宿命を背負う者同志だけが得られる、心の絆…。
 「最も血色に近きガーネット。それを若くして、いとも容易く自分の体内へ…しかも心の臓に入れられるとは、先行き頼もしく思われます。私のこのトパーズは未だ、心の臓へは入れられぬというのに…」
 天然のきらめきを見せるトパーズのジュエル・フォースは、一層輝きを増した。
 「これこそが『ミレトス』の証。カイ殿はアレク・シーン殿から、代々力を持つ『血』に受け継がれてきた物…石を己の力とすることが、我々の言う処の『継承儀式』なのです。先代の…生き残りの私が言うのも何ですが、ミレトス達はおそらく、自分の死期を感じてその子等にジュエル・フォースを託したと思われます。彼等が力を継ぐべき者であれば、それは手元に止まり、その者の力石として共鳴する…選者に違いはない筈です。なぜならこの石は、グレノアの意志が宿る生命石…生命と言うのはいささか大袈裟かも知れませんが、確かに『生きて』いるのです」
 (死期を感じて…)
 手の中の宝玉から亡き父の思念を感じ取り、カイはえも言われぬ表情になった。その顔は今までの彼からは想像もつかぬものだったので、ジェイは大きく目を見開いて魅入った。一方タウラスはかつて見たことのないその表情が、在りし日のアレク・シーンと重なり、寂寥の思いが溢れた。造作は同じであるというのに、性格の違いからか、一度もそう感じたことはなかったのだが…。
 「では、ジュエル・フォースを持つ者がミレトスなのですね」
 瞼を閉じ、一息置いてからカイは口を開く。再び目を開けた彼の表情はいつもと同じ、感情の伺えないものへと変貌していた。
 「それぞれ違う色石を保持したミレトスは、何等かの形で感応している筈」
 タウラスは自分の石をカイの持つジュエル・フォースに近付ける…すると、互いは同調して淡い光を点滅させていた。それは自分の能力の波長と重なるように輝きを見せる。
 ジェイはその光景に心を打たれ、自分に言い聞かせるつもりで言葉に出した。
 「カイ、僕は僕なりに頑張るよ」
 彼の微笑むその姿は、ダーク・ブロンドの髪に柔らかな陽光を受け、その瞳が一瞬トパーズ色の輝きを発して見えた。
 タウラスは自分の石を息子に託す日が近いことを感じた。瞳には次代のミレトスとして、この世界を担っていく彼等に対する希望の思いが称えられている。
 胸にジュエル・フォースを戻し、カイは脈打つ鼓動を確かめるようにその胸元を押さえた。…仲間を見つけるための手掛かりはここにある。一度は絶望的な淵に立ったと思ったのに、そこへ一条の光が射し込み、道は開けたのだ。
 (最後まで諦めるな。ラフィンの存在を確認しただけであって、シャルルについてはまだ何も分からないんだ。生きているか、死んでいるか…自分のこの目で確かめるまでは…)
 新たな決意をする彼の姿は美しかった。それ自体が発しいているような錯覚を起こさせる輝きを纏い、気高さを漂わせていた。
 まだ見ぬ仲間達との、ミレトス衆の結束が実現するその日も遠くない…彼等はそれぞれの思いを胸に、迫り来る大戦の前触れを感じていた。


(終)

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