| シリーズ | 一休シリーズ |
|---|---|
| 出版社 | 光文社 |
| レーベル | カッパ・ノベルス |
| 出版年月 | 2004/07 |
| 初出 | 書き下ろし |
| 主な登場人物 | 一休宗純、愛染、赤松貞村、足利義教、吉田憲法、赤松満祐 |
| ジャンル | 時代 |
一休さんの優しさと言うか、他者への思いが胸にしみます。
一休さんと都英のキャラが、重なりつつある様に思えるのは俺だけでしょうか? 両者ともに暖かくて熱い心を持ってるんですね。 この作品を読んで、人間もそう捨てた物でも無い、と考える事ができました。
義教公と憲法の「戦い」は凄かったッす。ココをもう少し読みたい気分でした。 ちょっと取っ付き難い先入観を持っていた魔術戦なんですが、とても入り易かったです。
義教様のファンになってしましいそうです(笑)。
採点であえて満点にしなかったのは、次回作への期待からだと思って下さい。魔仏行を更に超える作品を読ませて貰えるだろうという確信から満点評価はしませんでした。
読者とは貪欲なものだとお嘆きでしょうか?
散々、生意気な事を申しました。どうぞ、お許しを・・・。
| シリーズ | 一休シリーズ |
|---|---|
| 出版社 | 光文社 |
| レーベル | 光文社文庫「異形コレクション 黒い遊園地」所収 |
| 出版年月 | 2004/04 |
| ジャンル | 時代 |
室町時代に遊園地!? という難問を軽々と超えて見せたのもさることながら、何と言っても胸に響くのは、その「もの」に秘められた、ある人物の心に落とした陰の深さと、その陰を知って初めてわかる「怪異」の切なすぎる真の意味。そしてまた、アレを怪異としか受け取れぬ「時代」の在り方が、より一層切なく感じました。
足利義政といえば、何故か増築しまくった将軍様として有名。
では、その理由はどのようなものだったか・・・。
そのとんでもない理由は勿論、一休宗純の関り方もまた秀逸で、読後の第一声は『やられた!!』でした。
| 出版社 | 光文社 |
|---|---|
| レーベル | 光文社文庫「異形コレクション 夏のグランドホテル」所収 |
| 出版年月 | 2003/06 |
| ジャンル | 時代 |
紹介文と出だしを読んで、室町の時代から登場人物が意識を飛ばして、それが時空を超えて現代を垣間見るんだと想ってました。逆だったんですね(笑)。
でも、その出だしにはぞくぞくとさせられてしまいました。いまにも何かが起こりそうな、そんな、一触即発な空気があって。
そんなところへいつから迷い込んでしまったのか、私も気がつけばそわそわしてました。
主人公の人と同じで、不安で、落ち着かなくて。
蝋燭の灯のようにいまにも闇の中に消え入ってしまうんじゃないかっていう気持ちがありました……。
そんな中にあったから、隣にいる青年僧の存在がありがたかったです。
たたずまいとかうかべた笑みとか、やさしくかける言葉とか。想像するだけで、読んでるこちらの心まで自然と落ち着いていくのがわかって。何て人なんだ、って驚くと同時に、たのもしささえ生まれてきましたよ。
それに忌み言葉を入れた箱をひょいと取って中を見ちゃってるあたりなんか茶目っ気があって、どこか飄々としている風にすら感じられましたよ。あまりに堂々とやっちゃってるから、かえって「えーっ?」って想っちゃいました(笑)。
「もしや、あなた様は私の守護仏――」
そう想うのも仕方なしです。てゆか、私が守護してほし…イエ何でも…。
…ええと、続けます…。
やがて青年僧の提案で「異の葉狩り」が始まったわけですけど。
いつ各自の忌み言葉が出るか…主人公が言われやしないか…言われたらどんなことが起こるのか……。それが気になって気になって仕方なくって、ずっとハラハラしながら読み進めてました。主人公の人が不穏な空気に敏感になっているから、なおさらその気持ちは強まりましたよ。
それだけに、忌み言葉につかまった時の殿の、そして眠り目の、しだいに本性があきらかになっていく様は、読んでいて鳥肌立ちそうでした。
数かずの「罪」を重ねてきた殿も。
「神」をないがしろにした眠り目も。
自分の裡を「夜」に染めあげた上人も。
まるで心をうつしだしたかのような、なのに認めようとしないそのあさましい姿に、恐れを通り越してどこかあわれにすらなってきました。
しかもその上まだ他者を巻き込もうとするなんてあたりが信じられませんでしたよ。どこまで意地汚いんだ…。
だけど、巴になっていがみ合う三者に主人公の存在に想い至られた、その時――
「若し人が助けを求めなば、たといかれが千尺の井戸底にあろうとも手を差し伸べんとす。それが禅僧というものだ。覚えておけ」
気合一閃、振り回された杖が怪物を打って、想わず「よっしゃ!」とこぶしを握ってました。禅の教えは時にばけものにも向けられるのだなあと知って、頭の中がスッとしましたよ!(笑)
「何をしている。早く、こんなところより離れるのだ」
最初に連歌のさそいを断るように厳しく言ったのにも、ちゃんと意味があったんですね。
いつまで続くとも知れぬ、怪物たちの「争う」おぞましい光景。
永久に、永久に、争い合い、いがみ合いして、いつまでもそれをくり返して。
口々にののしってもつれあうのを、見ているだけでもその醜さにいやになってくるのに、あやうくその中へ加えられてしまうところだったなんて……。
だからこそ、上人の口から忌み言葉が出る前に主人公が意識を取り戻すのを見た時、ハッと眼をおおきく見開いてました。自分じしん、悪夢から覚めた瞬間のような、あわてて意識を取り戻した感じで。
いそいで墨をこぼした時、眠り目の使っていた硯なので最期を言えなかった恨みに墨から小鬼でも出てくるんじゃないかとも想いましたけど、そんな気配はありませんでしたね(笑)。
だけど、ようやく「All my troubles seemed so far away」かと想われたその時。
最後に霊媒から「あらそふほどのこヽろをも見ず」と言われた瞬間、ぎくりとして心臓がはね上がりましたけど……でも、何ごともなかったみたいで、確認するとふかぶかと安堵の息を吐いてましたよ。よ、よかった…。
この時、閉じられたドアの向こう側では何が起こっているのか……や、やめよやめよ。もういいです考えない。いいかげん怖くなってきた…。
やっぱり、前世であれ未来であれ、深入りしない方が身のためだなあと想いました。見なくたって生きていくこともできるんですし。ましてやそれが、自分の死に様なんてものであれば、なおさら……。
「もとの身はもとの所へ帰るべし いらぬ仏を訪ねばしすな」
ですね。(ふかくうなずきつつ)
主人公の人、よくこんな席にながながと腰かけていられたなあと想います。隣についていてくれる人がいるとはいえ、まわりは夜とばけものだらけ。心強さももちろんあったのでしょうけれど、そんな状況に耐えていられた精神力だけでもすごいなあと想います。
だからこれからは、おかしな方へ道を踏み外すことなく生きてってほしいなあと想うですよ。せっかく助かった命ですから。
きっと掛け軸の青年僧も、それを信じて見送ったんじゃないかなって想いました。
そういえば、その時をかける青年僧。
わざと素性を明かさないかっこよさや、救いをもとめる人のために魔境へおもむくこともためらわない熱意に、読みながらジンワリきてしまいました…。アンソロジーの合間には通りかかった“紳士”さんにも視線をよこされてましたけど、この時はどんなお顔をされてたのかな(笑)。
最後まで正体は明かされませんでしたけど、でも何だろう、ふとなつかしい人に再会したような、そんな、あたたかいものが、心の中にひろがっていくのを感じてました。読み終わったあとも、
(――ほんとは知ってるはずなのにね)
やさしくてせつない、そんな気持ちで。
でも、この水墨画を描いたのって、いったい誰だったんでしょう。
ホテルに飾られているくらいですから値打ちはありそうですし、それだけに作者も気になります。
室町時代の水墨画家といえば、雪舟さんとか賢江祥啓さんとかが想いうかびますし、あるいは後世になって描かれたものなのかもしれませんけど――いずれにしても、この画が描かれるまでには何かひと騒動(?)ありそうですね。そこからまた新しい作品が生まれたりして……なんて想ってたりします♪(笑)
| 出版社 | 祥伝社 |
|---|---|
| レーベル | ノン・ノベル |
| 出版年月 | 2002/12 |
| 初出 | 書き下ろし |
| ジャンル | 時代 |
面白い! 面白い! 面白すぎる!!
その展開の凄まじさに、もう夢中です。読むなり雰囲気に取り巻かれて、世界に引き込まれてしまって。こういう、読んでてアツくなれて、力強く「やった!」と想える物語って大好きなんです!!
それと、だごん様の作品では、「星辰」という単語がしばしば重要な意味あいを持つものとして使用されていますよね。今回もさっそく、大蔵大輔の科白をはじめここぞという時に出てくれているので、途方もないものを相手にしているという圧伏感が強く感じられています。
序章にて、「これまで」の歴史が語られつつ、その陰でひそかに進行していた悪魔の計略に、「これから」何が起こるのか、早くも楽しみになってきましたよ♪
――と想いながら読み進めていたら、いきなり才蔵さんが斬首されて、佐助さんが窮地に…。
「嘘やろ……」というのが正直な感想でした。
だって、真田十勇士は強くてカッコよくて、どんな強敵にもおそれず立ち向かって、中でもリーダー格の猿飛佐助さんと霧隠才蔵さんのおふたりは、決して負けない、無敵の――……
(そんな…そんな…)
霧隠才蔵が望月六郎さんで猿飛佐助が海野六郎さんだったと、その実がわかっても、それでも「真田十勇士の死」というのは信じられませんでした。最初は読みながら、「感想の書き出しは大久保長安のケバ趣味で」とか想っていたはずなのに、あまりの出来事に呆然とさせられるばかりで……。
「もし万が一にでも、本日招いた方々の星が、こちらの求めた星と異なれば……。つまり、おこと等が正しい星の持ち主でなければ、身共はもとより、おこと等も本日限りの命ですぞ」
大久保長安の言葉どおりになってしまいましたね……。
星がととのえられた庭で、さだめられるままに、決着されてしまって。
「行け。俺に構わず、早く行け――」
「甲賀流忍術死に夜がり――」
つらかったです。読みながら、死に瀕してのおふたりのさけびが聞こえて――……。
海野さんも望月さんも……真田十勇士の一員として活躍してきたおふたりですから、受けた衝撃は大きいです。当初はこんなことを考える余裕もありませんでした。
ここで退場してしまうための序章での見せ場だったのかと想うと悲しいですけど、見事な死に際でした。たとえ手をぐちゃぐちゃにされても、どれだけ刀を喰らっても、本当に、その身のほろぶ最後まで、自分が信じるもののために命を尽くされて……合掌。
真田忍びふたりを葬った御子丸たちは伊賀忍者たちでしたが、本当の敵は伊賀忍軍ではなく、その背後に控える勢――柳生一族。
そのひとりである柳生佐久夜姫の登場には、かなり強烈なものがありました。
険しい顔・妖しい流し眼と、ひとつひとつがとても印象的で――若衆の姿をしていることもあって、見せている表情がとてもなまめかしくて、妙にドキドキしてしまいました。…でも、問いにはっきり答えない御子丸(=家来)にイライラをつのらせたりする姿は、いかにもおひいさまですね(笑)。
しかし。
「新陰流、天狗秘法のうち、雷光」
鞘から抜き放つや、石火の動作で御子丸の身体を斬断した時の――その、剣技!!
一方の小笠原慶雲さんも、顔に似合わず怖い方。襲い来る根来集を次々と斬っては倒し斬っては捨て、吐かせるために残した最後のひとりにもまったく容赦をせず、拷問まがいの目にあわせて。
こんな化け物じみたのが相手だなんて……。
やばい…やばいよ、佐助さん!!
それにしても、海野さんが喝破し、半蔵たちが突き止めた、「ふたりの大久保長安」とは、一体どういうことなのでしょうか。
「忍法ふたり長安」
「忍者大久保長安」
こうかくと山田風太郎大人の短編みたいですが(笑)。
だけどそもそも、序章においてあんなことやこんなことをしてた大蔵大輔が、今回の〈招待者〉大久保長安と同一人物だとは到底想われません。そうなるとやはりデュマの『鉄仮面』みたいな双子とか、あるいは――……。
ともかくも、大久保邸には替え玉の死体が捨て置かれ、長安は柳生に幽閉されることに。
すべての秘密を握るキーパーソンが囚われるなんて、早くも先行きがあやしくなってきましたね。
茶入れのひとつは真田の手に。
もうひとつは、柳生の手に。
獲物は1:2で、出だしはまずは徳川有利な形勢になってしまいましたが。
第三勢力まで登場しての三つ巴戦ですが、でも、きっと巻き返してくれると信じてますよ!!
そもそも裏で此度の闘争を始めるきっかけになった、豊臣と徳川の現関係はどうなっているのかというと。
「余が就けば、たといそこが廊下であろうと、そこは上座。余がおらば、たとい僻遠の駅であろうと、そこが天下宇宙の中心である」
つくづくと、家康という人は気の毒な人であると思う。(信玄忍法帖)(笑)
――親子二代にわたって苦しめられようとは…天下を目前に笑えたのもつかの間、これじゃあ夜も寝てられませんよね。おいたわしや……。
無事に真田庄へ戻ってきた佐助さんと才蔵さん。
そういえばここで、闖入者を追い詰めながら、〈真田十勇士〉個々のざっとした自己紹介がなされてましたよね。読みながら、誰にも、「さすが〈真田十勇士〉!!」と想わせるものがありました。
まず佐助さん、もとい猿飛佐助さんは、やっぱりいつ見てもカッコイイです! 忍びとしての強さ以外にも、ひたむきな心や、敵のくノ一がまだ少女だったことに胸を痛めるやさしさもあわせ持っていて。小説ですから具体的なビジュアルはないものの、想えばいつだって、まっすぐな眼をしたやさしい笑顔の佐助さんが浮かびます。……そしてそのたび倒れそうになります。
「大丈夫ですかケイトさん!?」
「なあにたいしたこたぁねえ…。ちょっと動悸・息ぎれ・めまいが襲ってきただけでさぁ」
……スイマセンつまりは重症です。(←寝込むといいね…)
えと、えと、穴山小助さんは何かと気苦労が多そうなタイプですね。「女を殺すことなんぞ屁とも思っちゃいな」い割には、様子見てると何かと神経使ってそうですね(笑)。心配性でもあるみたいですし。仲間内でも世話を焼いたりして、特に才蔵さんと十蔵さんの間で肝煎るのはハラハラものみたいですが。ストレスで胃に穴あけたりされてないかしら…心配です。
三好清海さんは豪気な人ですね。いかにも大入道な容貌に加えて、武器も五尺鉄棒なのにかるがると扱うなんて、いさましくてとても頼りがいがありそうで、一緒にいると面白い、そんなおおらかさも感じられましたです。
そんな清海さんへの、甚八さん評。
「やれやれ、うるさいだけでなく気の短い坊主だ」
ごもっとも(笑)。あ、短いといえば、ついでに毛も…。(←…そういうシャレはいいから)
その清海さんの妹である伊三さんは男まさりな性格なんですね。お兄さまの影響なのでしょうか。そういえば「野生の豹」というたとえから、某パンテーラ姐さんを連想してしまいました(笑)。どこか通ずるものがありますけど、でも敵くノ一を気づかったりして、決して乱暴じゃないところに、伊三さんは奥ゆかしさがあるというか。
筧十蔵さんは何ていうか、さくさくした人。火薬師になってなかったら手妻で身を立ててたかも(笑)。でも成長期のためか、性格には老獪さがない分おさなさが見られ…あ、もちろんほめ言葉としての意味ですよ!?(あせあせ) そんな一面も含めて大好きなのです。それに、十蔵さんに関する描写って、ひとつひとつとってもスキですし。
それにしても……彼のような手妻師がいたら、破産するに違いない(私が)。公演の時には連日芝居小屋に通い詰めますよ〜!
……こほん。
気を取り直して根津甚八さんは、冗舌家みたいですね。と言うより、さっさと済ませる十蔵さんとは逆に物言いの長い性格みたい。でも甚八さんの〈暗夜くじり〉を見てると、どこか現代の催眠療法に通じるものがありますから、人の心の奥に踏み込むサイコセラピストには、それぐらいの気の長さが必要なのかも。
そして霧隠才蔵さんは、色河原。まごうかたなき色河原。笹子峠ではドライな面を見せたかと想えば、今度は自己紹介にも積極的なPRを入れてましたし(←「ただ一人、まともに」って…!/笑)、一方で誘い文句も忘れてませんし。その上ウィンクまでしてるし。ただ、どこか憎めないんですよね…。イエ私は断然佐助さん派ですが。
そして幸村さん・天海御坊によって少しずつ茶入れの謎が解かれていくわけですが。
まさかこういう〈解答〉だったとは、驚きました。
そして同時に、あの存在がにじみあがってきて……。
妖教・真言立川流。
この時代に生きる人たちがこの宗派の名を口の端のぼらせることをためらう気持ちが、いまではよく解ります。「逆宇宙ハンターズ」しかり、「一休さん」しかり、『百怪祭』しかり――わずかでも縁をもってしまった人たちが、一体どんな運命を辿らされたことか…。
真田のみなさんもまた地獄を見ることになるのかと想うと、いやで仕方ありませんでした。それをとても危惧していたのですが……。
なのに、幸村さんの言葉に反応する才蔵さんはいちいち面白かったです(笑)。出逢った女の話をしたり、まぜっかえしたり。
「そりゃあ……。外で女と寝る時の用意に大きめの袱紗くらいは持ってますがね。武士のたしなみに」
そうか…外で女と寝るのは武士のたしなみなのか…そうか…。(←そこにかかってるんじゃないよって)
ボケてしまう余裕も生まれてしまったり(笑)。
あと特に、不貞寝したと想えばまた起きたりは、「うわあ」と想ってしまいましたですよ…。甚八さんに肩すかしをくらった時といい、いいもの見せてもらいました…ごちそうさまです!(笑)
佐助さんも佐助さんで、才蔵さんの軽口に合いの手を、過ぎた時は止めの手を入れたり。幸村さんの考えが煮詰まったりして心情を察した時はかいがいしくお世話されてたりと、そんな純真さとやさしさでカバーされて……ええひとや…。
立川流が絡んできて、ともすれば重たくなる空気が、明るくゆるやかなものになって。
おかげさまで、こちらまでくすくす笑ってしまいました。これは佐助さん才蔵さんのお人柄によるところが大きいなあ、と感じました。
さて! 茶入れの謎もほぼ解けて指針も定まったことですし、真田のみなさんがいよいよ本格的に動き出すわけですが。
何だか早くも不安な影がさしてきてますよ……。
甚八さんは羅山の術を受けて体調崩されたそうで、精神のよるところが不安定そうですし。
しかも幸村さんがお由利さんに〈暗夜くじり〉をかけられて…。
佐助さん――みなさん、大丈夫なのでしょうか。
羅山たちも動き始めたようですし、柳生側の手配で日本中が一触即発のはりつめた空気でぴりぴりしていて。
眼の前にあまたの敵陣。身内には不穏分子。
内から外から崩されかねない状況で、この山場をいったいどう切り抜けていくのでしょうか。
佐助さん、信じてますよ…!
ふたたび、黒星帝苑。
単身、佐久夜姫指揮する柳生の捜索隊にまぎれた佐助さんでしたけど、ついにここで。この庭で。
《三光殿、ようこそ、御到来》
まるで――共鳴するように――
「柳生佐久夜じゃ」
「猿飛佐助だ」
星が整えられたこの黒星帝苑で、それは、あまりにも運命的な邂逅で――。
「星界の霊聴」が耳に響く中で、このふたりが。
――正面衝突!!
先に仕掛けた佐助さんは、神業的な体技を見せ、
「戸沢白雲斎直伝、新陰流表六技のうち、猿飛――」
対する佐久夜姫も、佐助さんの蹴りを防ぐや、
「天狗秘法のうち地蔵返し――参る」
両者一歩もひけをとらず、力のかぎり渡り合って。
邪魔こそ入ってしまいましたが、星ぼしが狂い、みだらな嬌声が谺する中で、闘うふたりの姿はあまりにも鮮烈で。
まるでそれは、夢幻のような瞬間に感じられました。
囚われの身となった佐助さんと佐久夜姫ですが。
いち早く覚醒して羅山の術を破る佐助さんはカッコよかったです…! 破術の苦しみに耐え抜く様子も、痛々しく想ってしまうよりも、力を込めて応援したくなるものがありましたし。
しかし、羅山……。
はっきり言います。私、こういうタイプって一番苦手です。上の者へはとことんへりくだって媚び売ってべんちゃら使って。そのくせ下の者へはとことん見下して横柄にいばり散らして。科白を読むだけで相当いやったらしい根性してるのが解るから目下の佐助さんがこんなのに意思の主導権を左右されてるのだと想うと、応援する気持ちはなおさら強まったり。
おまけに、本多佐渡守!
「かような乙な気分にさせられたは十五年振りじゃ」
かんべんしてよ……。(オエッ)
しかし…いつの世にもいるんですね、こーゆう人って。
「この手応えでは、うぬは生娘じゃな。ふ、ふ、生娘に胸ときめかすなど、何十年振りか……」
おっさんは回春モードに入ったモヨウ。(オイオイオイ)
でもこれじゃほんと、ノー○ンしゃぶしゃぶ行ってるどこぞの高級官僚と変わりませんよ。これだからいやですねもうろくじじいは。
そんな痴態をさんざん見せられたおかげで、いいかげん気分の悪さで胸が塞がれてしまいそうでしたけど、佐助さんが佐渡守をぶん殴った時は「……よし…!」素直に想ってしまってました。鉄拳制裁、おみごとな一撃でしたよ〜vv
そして、
「なにが、ふふふ、だ。この助平爺」
以来どの本でも、本多佐渡守の名を見れば自動的に「すけべじじい」のルビがふられるようになったといいます……私だけ?(笑)
羅山にも忘れず仕返しをしたところで、あらためて名乗りあうふたりですが。
「……俺は……猿飛佐助だ……」
「わたしは柳生佐久夜じゃ」
この時のおふたりを見ていて、私も心の中に「ある気持ち」が存在していたのに気づきました。それはひょっとしたら錯覚かもしれないし、見当違いなのかもしれない。でも、あるいは……。
――この時点ではまだはっきりとしなかったので説明できませんが、おいおい書かせていただきます。
で、佐助さんと佐久夜さんとで力をあわせて牢から脱出していくわけですが、見ていて、自分の中で抱いていた佐久夜さんのイメージが少しずつあらたまっていきました。
佐久夜さんって、ひとたび剣を抜けばそれこそ怪物的な強さを発揮しますけど、そればかりではなかったんですね。
真田の人が自分の想像と違っていたと知れば素直に感服したり、佐助さんの言葉に「良かろう」「承知した」とひとつひとつうなずく姿にも、読んでてとてもほほえましくなるものがありましたし。
捕らわれる際に「柳生の姫なんかと」と想ってた佐助さんもそれを改めるほどで、こういう気高さや少女らしい面も持ち合わせていて、そこがまた佐久夜さんの神秘性を引き出していて。最初の印象が強烈だったせいかもしれませんけど、決めつけてしまったことを、私も少し反省しました。
さらには隠しておいてもいいのに「手紙」の手がかりを与えたり、それに、佐助さんに「聖天堂から石見守を奪ってみるがよい」と稚気ある挑戦までして!(ひゃあ)
今度お逢いできた時は、好勝負が期待できそうですね。
おふたりが無事に牢から脱出したその時、涼風の通り抜けたような爽快感があったのを、今でも覚えています。
一方のお由利さんも、幸村さんの秘策にのっとって、いい働きをしてくれてましたよね。
〈万字崩し〉、お見事でした…!!
これでお由利さん、正式に〈真田十勇士〉の一員になったんですね! 羅山のもとを逃れるように離反して、つらい過去も抱えつつまだなじみの浅い面々との活動ですけど、でも真田のみなさんなら、あたたかく受け容れてくれますよね。佐助さんも認めてくれたんですから。まずはよかった!(笑)
ただ、お由利さん、術かけられすぎのような……。大丈夫なのかしら、イロイロと。脳に悪影響とかないのかなあ。幸村さんが、施術するのと同時に、羅山のは解術してくれてるといいのですが。
ところで。
私、登場人物の性格や言動には気をつけている方です。読んでいて次はどう出てくれるのか楽しみですし、作品内に書かれている以外にも想像するのは面白いですから。
しかしこの時の佐助さんの言葉にはぶったまげました。正直に。それはもう口に飲み物を含んでいたら10m先にまで噴射してしまわんばかりに。
……だってさ。言ったよ!?
「俺の友達の才蔵なら」って!!
笹子峠では仲間の死を悼んでいた佐助さんが! あるじの命に飛んでかけつける佐助さんが! 軽口で佐久夜姫をあしらってた佐助さんが!
さ・す・け・さ・ん・が・っ!!
ぜえ、ぜえ…。
はあ、はあ…。
……………
……………
だって佐助さん他の人を引き合いに出したことなんてこれっぱかしもなかっ(ケイトさん落ち着いて!)
……ええと……なんかもう、しばらく呆けてしまってました(苦笑)。とにかくびっくりした……。
さて、本編に戻りまして。
順番が前後してしまってついでのようなところですが(スミマセン)、
「佐助、甚八。……お由利さん。みんな、全然連絡よこさないで。一体、何やってんだよう」
伊三入道さん待ちぼうけ(笑)。
「身の丈六尺の豪傑」は知らず(笑)、退屈をもてあまして火を飛ばされてますけど…ただ、美人な伊三さんのことですから、通りかかった男どもはちゃんと眼にとめるんですよね。でもまわりを飛んでる火のせいで近づかないんですよね、きっと(笑)。
だけどこの時、伊三さんがちゃんとお由利さんの名前を、それもさん付けで呼んでいるのには、ビックリしながらも嬉しかったです。少しずつ認められているんだなあ、と。
でも、ひとり認められている反面、ひとりが見放されて。
佐助さん、やっぱり甚八さんとは決別してしまうのでしょうか…。
羅山の「甚八か佐助か、いずれの者にかけた術が〜」という科白も聞こえているはずですから、強がるような言葉の反面で信じてくれているといいのですが。
で、新たな手がかり、大久保長安の自分宛書簡。
ここでこれまでの筋立てをまとめておくついでに、いったん本を閉じて、天海僧正による謎解きがおこなわれる前から直感だけで憶測してしまいましたが…。
自分なりに考えた結果、
「正は我なり。反は汝なり。合すれば、革まるべし。
全ては青蓮華に訊け。」
大久保邸黒帝星苑には、青い蓮華――うとぱらの花が咲いてましたけど、あの花がこそが「もうひとりの長安」を呼び出すカギなのでしょうか。「青蓮華」は長安じしんがつけたネーミングだから、間違いなさそう。だとすると文面は、「本当の『大久保長安』は自分で、お前はニセの人格だ」という意味あいに? 大久保長安は立川流の関係者。海野さんの〈後やぐら〉に出て来た青色がこの蓮華を示しているのだとすれば……うわあ何だかそこはかとなくいやな予感が。
そして、もっとも気にかかる最後の1行…。
「二つの佐の字、拾うも同じ。」
……「佐久夜姫」と「佐渡守」ではないですよね…?(ありえねええ)
冗談はさておき…この中の「拾う」って、動詞ではなくて、「佐の字を持たない、佐助さんたちと同じ星の持ち主」という意味なのでしょうか。
それが羅山が二十八宿盤で導き出した星宿図の人物だとすると、それはもしかしておひろいさま――秀頼公のことだったりするですか…?
……まさかね。あのうら若き大坂城主が妖教立川流に関連しているだなんて、そんなスキャンダラスなことが――
――ありそうで怖い。
どうしよう……。
直感にもとづいた推測ですけど、自分の直感ってヘンなトコで当たるからなあ…。
これらが全部当たってたら、幸村さんの想像ドンピシャですよ…とんでもないことになりますよ…。
聖天堂。即ち「秘法 変幻青蓮華」の章なのですが。
目次に眼を通した時から、「この章には何かある――」と直感していました。
不気味な感覚。見たくないのに見てしまうような、あの……。
小笠原さんの、
「だが、見たことか。姫様は自力で脱出され、」――
という科白に、普段であれば
「脱出どころか貞操の危…イエ、何でも……。(剣呑剣呑)」
と返すところなのですが。
天海僧正による謎解きの委細詳細も、歴史伝奇的な事柄が含まれているからデザートを前にした子どものように大喜びするところを、今回は聞きながらも心が晴れませんでした。
〈第五之書〉をひも解いた時――
もしかしたら、既に包まれていたのかもしれません。
書面から妖気が漂い出してくるような、そんな、じわじわとした恐ろしさに。
読んでいくうちに、それは身のふるえに変わってきました。
脳の奥で、赤い光が明滅し始めました。
そして――
「さあ、煙を吸え。吸えといったら吸うのだ」
ああ! ああ!
とうとう、してはならないことを!!
やはり、海野さんの〈後やぐら〉は、あの自分宛書簡は、大久保長安という人物がふたつの人格で構成されていることを示していたんですね! そして、彼を目覚めさせるカギこそが、あの運命の蓮――うとぱらの花…。
ついに覚醒したその姿――腰元の生気を吸い尽くし、それを力として己にみなぎらせている姿に、戦慄してしまいました……。
妖教立川流の奥儀を用いて豊徳両家を裏切って秘事を奪い、石田三成をして「悪魔」といわしめたあの大蔵大輔こそが、今ここにいる大久保長安なんですね…!
これほどの魔物であるなら、大久保さんが拷問に合いながらも知らぬ存ぜぬを貫き続けたのにも得心がいきました。聖天堂での躍起ともみられる抵抗ぶりも、決して覚醒させてはいけない、その復活を何としてでも阻止しなければならない、という一念からだったんですね。
それが察せられて、知らず、歯軋りがもれていました。
柳生の人たちも、天海御坊も、ろくに考えもなしに……まったく、馬鹿なことを…!!
佐久夜姫も黒星帝苑で一輪とってましたけど、まさかあの花がそんなおそろしいものだったなんて……。想い返してみれば、佐久夜さんの性格が、黒星帝苑で大久保さんを捕えた当時と、再び黒星帝苑で佐助さんと対峙して以降とでは、いささか違うような。個人的な感覚かもしれませんけど、何だかそんな気がして…。これももしかすると、青蓮華のかおりによる作用だったのでしょうか。
佐久夜さんの危機に駆けつけた佐助さんたちも、ことごとくあしらわれてしまって…。
「見たか、佐久夜。これこそ、わたしが、お前の父という証だ」
「分かったか。猿飛、これぞ、わたしがお前の父である何よりの証だ」
すべての事柄を演出していた、こんな化け物が相手だなんて…!
勝 て な い 。
胸に浮かんだ想いを慌てて打ち消しましたが、でも、相手はただひとりのはずなのに、あきらかに佐助さんたちは劣勢。余人はまったく手出しを許されないこの魔戦において、
(ちくしょう…ちくしょう…!!)
悔しくて仕方ありませんでした。
人間はみんな、誰でも――海野さんたちのように――結局は星の言いなりになるしかないのでしょうか。
そんなことはないと信じたくて、でも自分なんかでは否定できなくて、佐助さんがやられそうになっているこの時も誰も止めることはできないのかと悔しがるばかりでしたけど……
しかし、想わぬ方向から援護の手――甚八さんの巫蠱毒!
「長安、星がつかずとも、俺は貴様を倒したぞ。人間、星なぞに操られている訳ではないようだな」
まさかこんな活躍を見せてくれるとは…!
ミイラ取りがミイラになってしまったいま現在の甚八さんですけど、彼のこんな見せ場は嬉しかったです。私の心を読んだかのようなこの科白も(笑)。
でも……
よかった…よかったよ〜…。(へなへなと崩れ落ち)
目下は羅山の麾下にいますけど、それでも、彼は彼なりに、少しずつこの状況を、羅山の術を打破できるだろう、だからまたきっと、もとに戻れる――そう考えて、待つことにしました。
そして、この場のシメ。
「そっちが来るまで、待ってられるか。この阿呆!」
脱出成功!
ひゃっほーう、と声をあげそうになってしまいましたよ♪
やったぜ活取火、さすが伊三姐さんです…!!
……………
安心した途端に、どっと疲れと、ちょっと疑問がわいてきました(笑)。
なぜ長安は、大久保さんを表に出して、身の内に引きこもってしまったのでしょう。時おり手紙で指示は出していたみたいですが。そのあたりが解かれずじまいのままでいまいちスッキリしませんが、これものちのちに明らかにされるのでしょうか。
(※区別のため、以降は、温和な方を「大久保さん」、化け物の方を「長安」と呼ぶことにします)
さて! 十蔵さんとも合流できたことですし、残るは『茶入れの謎』ですね――とか想っていたら。
才蔵さん、十蔵さんほっくらかして消滅してしまってるしさ〜。(ブツブツ)
そしたら佐助さんが、
「……才蔵は女好きだが、務めを忘れて遊女買いに行くような奴じゃない筈だがな」
あう…ッ(痛)。うーん、何だかこのふたりの間には、想像以上に強い絆があるような……てゆーか佐助さん問題発言多すぎ!!
……今回の作戦において、幸村さんが佐助さんと才蔵さんを一緒にしなかったのは、とても正しいと想いました…。(ゴフリ)
「思い返せば『燦星秘傳』をめぐりし此度の争いには、その基底に全て共通いたすものがあった」
イヤそれよりも! ……天海御坊、よく生きてんな。(やっぱ化け物だ…)
林羅山陣営には何だかどこかで見たような(笑)怪剣士・京極内匠が加わって、戦力が整いつつあるモヨウ。
野干獣もその鼻面を転じて。
みな、目指す先は同じ。
富士へ――青木が原の樹海へ。
到着するなり、三々五々にそれぞれ散らばっていった佐助さん、伊三さん、お由利さん、十蔵さんですけど。
はやくもそこかしこで闘いが始まっていますね。
まずは淡々と片を付けた銃蔵さん(上手いこと言ったつもり)の手際にはさすがだなあ、とため息がもれました。……やっぱり、手妻師、向いてるかも(笑)。
佐助さん対小笠原さんも、なかなかの好カードでした。
小笠原さんは速攻で決めるタイプなんですね。早く決着をつけなければならないからか繰り出す攻撃の数も多いみたいですが、持久戦に持ち込まれると唐陰殺刃はあきらかに不利な技。最初こそ防戦一方の佐助さんでしたけど、体質と運動量においては実質有利だったんですね…。
そして、
「目下は戦さの最中でな。こんな手も使わねばならん。許せよ」
キャッ☆(←イヤ、キモイから)
でも、佐助さんの科白には素直に笑ってしまいましたよ。
お・小笠原さん……だいじょう…ぶ……?(おそるおそる)
三つ巴のサバイバル戦が展開される中、ひときわ異彩だったのが佐久夜姫でした。
次々に襲い来る根来忍者を羅刹のように斬っては捨て、くもりない凄烈感をまとうように漂わせている佐久夜姫。
私も身を固くしながら、伊三さんやお由利さんの心理がよく理解されました。
そこへ「だあッ」という気合とともに飛び込んできた佐助さんは、カッコよかった…!! 佐久夜さんを蹴りつけざま戦闘態勢に構えて、ものすごくりりしかったですよ。
しかしビックリしたのですが。
佐助さん、伊三さんとお由利さんスルーされてましたよ…。
「大丈夫か?」とか訊かれないのでしょうか。いちおう殺される寸前だったのですが。
でも、それどころではないから、それも仕方ありませんよね。
「会いたかったぞ、佐助」
「今度こそお転婆にお灸を据えてやる」
ここまで喜色を表に出されちゃあ…(笑)。
佐久夜さんはわざわざ鉄扇を返されまでしてましたし。
もう、ある意味、ふたりの世界?
……茶化しはともかく、おそらく本多佐渡守の屋敷で「正々堂々と」という約束を交わして以来、秘巻争奪とは別に「自分たちの勝負の決着をつけたい」という想いがあったんだと想います。さんざん邪魔が入ったり、戦うどころではない状況に置かれたりして、ずっと中断したままだったために。
「新陰流猿飛の法のうち、月見――」
「……新陰流天狗秘法、八重椿」
互いが向かい合って獲物を構えた時、私もぞくぞくしながら、はりつめた空気を体感していってました、が――
どうして羅山陣営がいつも邪魔するですか。(あああ……)
まだ刀も合わせてないというのに……。
「動くな。動けば、わしの団扇一つで、うぬらは皆殺しじゃ」
や か ま し い 。
「子曰く、智術の士は必ず遠見にして明察なり、と。真に偉大な術者とは一切を終わりまで見通し、その最後まで考慮し尽くす者なのだ」
まさかそれが自分だなんて死んでも言わないでいただきたい…。
伊三さん、お由利さんふくめ、ことごとく捕らわれてしまって。
残る人たちが気にかかったのですが、十蔵さんと小笠原さんはともかく、
「半蔵めは逃げ去ったようですから、これで全てでございますな」
御家の汚名返上のチャンスに何やってんだあの人…。(ひたいに手を当てつつ)
侮蔑を投げつけられるばかりか嘲笑悪罵まであびせられ、そのうえ犬の真似までさせられて……。
林羅山といい大久保彦左衛門といい、ったく、この陣営はどいつもこいつも……。
(……畜生……なまじ面の良い男ってのは、どうして、みんな、こうも根性が腐ってるんだよ)
ホントにね! まったくね!(中指を立てつつ)
でも――京極さんの言、何か違和感みたいなものがあるような気が。それがなんなのかはハッキリしませんけど、彼の言葉は本質的には、あてこすっていないただの軽口、そんな感じがするんです。
どうしてそんな感じがするのかは解らないけれど――。
佐助さんたちのみならず佐久夜姫までもがはずかしめを受けて、さらに小笠原さんが――
柳生の家に養女としてあずけられて以来、剣術修行に打ち込んできた佐久夜姫でしたけど、そんななかで出逢った小笠原さんの存在が修行の辛さや孤独をやわらげていたんだと想います。
「姫、御安心を。小笠原慶雲、只今推参仕った」
茶入れのかけらにも気を使うくらいで、どんな時も佐久夜姫を第一に心配していて。だからきっと、主や師父に言われてきた以上に、彼のなかで「姫さまをお守りする」という気持ちは大きかったんだと想います。
「姫を侮辱したは、貴様かッ――」
もしかしたら、姉と慕う佐久夜姫を生涯をかけて守り通すと、本人の前で誓ったこともあるのかもしれません。――そんな、おさないころからのふたりの姿が、浮かぶようでした。ですから、
「小笠原は、慶雲は、私の弟も同然だった。たった一人しかいない弟だったのだ」
失ったその悲しみは、痛いほどに伝わってきました。……
烈火のように怒っていた小笠原さんの心を知り、名前で呼ぶほど我を忘れていた佐久夜さんの心は。
「愁嘆場は芝居を湿らせる。わたしは湿った芝居が大嫌いでな」
だからこの時はむしょうに気分が悪くて……。こいつのはげ頭をきりひらいて脳みそに「馬鹿」と書きなぐってやりたくて仕方なかったです。
こんな腐ったやつに仕切られているこの状況を、何とか変えなければならない。だけどとうとう隠し蓋が見つかってしまって……。
もう、このままなすすべもなく、秘巻が羅山のものになるのを見ているしかないのでしょうか。こんなやつにすべてを奪われて、豊臣もそして真田もほろぶしかないのでしょうか。
ハラハラしながら見ていたのですが、そしたら――
十蔵さん、ナイスタイミング!
まさかこういう仕掛けがあろうとは…!! 硫化水素(と、考えて大丈夫なのでしょうか?)が噴出する前に佐助さんたちの避難は成功してたみたいですし、十蔵さん、大活躍ですね!
もう、羅山の悔しがる顔が眼に浮かぶようですよ…。
どーこが「一切を終わりまで見通し」てるんだよ。ざまあないや!
しつこく生きてるみたいですが、少しは気分が晴れました。あー、スッキリした♪(笑)
そして、いよいよ本当の秘巻の在り処を探り当てるわけですが。
「俺たちで掘るから。お前らは佐久夜を見ていてくれ」
個人的には佐助さんについててほしかったのですが、伊三さんたち女性陣に土仕事させるわけにはいきませんし、十蔵さんひとりに重労働させてはなりませんし。そう考えた上でのご判断だったんでしょうけれど。
ああしかし。
伊三さんも由利さんも、「何で柳生の姫なんかを」と毒づいてもよさそうなところを、しっかりと護衛する形で、佐久夜さんにつきそってくれておりましたよ…。佐助さんの、そしてきっと佐久夜さんの心も察してくれてましたよ……。
反対側で残飯あさりの犬よりも世にもあさましい光景が繰り広げられているだけに、伊三さんお由利さんの行動は本当に嬉しかったです…!!
燦星秘傳。
その内容は決して、人が知るべきものじゃない。使用していい知識じゃない。
知れば必ず使いたくなり、そして使えば絶対に世は戦乱に陥る。
豊徳の戦に関わる大秘事が記された巻は、佐助さんが握る〈吽之巻〉みたいですから、幸村さんに任せれば必ず、しかるべく正しい判断を下してくれる。そう想って間違いないでしょう。
しかし、羅山が、彦左衛門が狂喜する〈阿之巻〉には、恐ろしい術が……。
こんな腐ったやつがこの秘巻を恣意に使えば、大変などころではなくなる。
じりじりと、それが危惧されて仕方ありませんでした。……
「だったらよ、儒者先生。気を許してた用心棒に裏切られる術ってのは巻物に書いてあったかい」
――え?
「最初っから、俺は佐々木小次郎なんかじゃないと、そう言っていただろう。手前らが勝手に間違えたんじゃねえか」
じゃあ、その口調……。
「今、見せてやるぜ。信州真田に鎌倉の昔から伝わっていた望月流変装術。その宗家、望月六郎おっさんの直伝だ。とくと見やがれ――」
まさか…まさか……。
「俺が霧隠才蔵だ」
ひゃー!!
もう、こぶしを振り上げてしまってましたよ! なんだよ! なんだよなんだよ!
ちくしょー、なんてカッコいいんだ…この真打ちめ!(立てた中指をひっこめつつ)
羅山の手首をはねて、さらにさらに、
「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚……」
いいぞ、もっとやれ!(笑)
まったく! こっちの肝を消すような登場するし、詩まで歌ってひとりいいトコ取っちゃって、ホント、
「気障ッ」(伊三さん)
とりあえず、秘法〈立鼎〉の発動は逃れましたけど……
でも、羅山の脳のつくりは凡庸ではなさそうだから(いやだけど)、次回まみえた際に使用されないとも限りませんよね。どうだろう、微妙だなあ……。
失神したついでに記憶から飛んだりとか……ありえませんよね、そうですよね。(←そんな御都合主義…!)
戦々恐々としつつ、今後も、間違っても発動しないことを祈ります。
そして……
「あいつは……佐久夜の弟同然だったんだ」
同じような境遇で生まれ育った佐助さんだからこそ、佐久夜さんのその気持ちはよく解ったに違いありません。だからきっと、「小笠原の仏前に巻物をそなえたい」という心情も。
何より、
(林羅山。……貴様は……貴様だけは許せんぞ……貴様だけは許せない……)
あの時の怒りは、きっと、佐久夜さんのためだけのものではなく、ずっと彼女につきしたがって守ってきた小笠原さんのためのものでもありましたから……。
おふたりが向かい合った時、回想するように、脳裏に浮かぶシーンがありました。
佐助さんが黒星帝苑で佐久夜さんに出逢った、本多佐渡の屋敷に囚われた夜――。
それは、数奇な運命のつながりで。
あの夜から数日と経たないうちに、再びこうして相見えることになったわけですが…。
見当違いかもしれませんが、私は、佐助さんと佐久夜さんが互いに対して抱いている複雑な感情のなかに、もしかしたら「安心感」もふくまれていたりするのかなあ、と考えてしまいました。
生まれた時から独りで血のつながった親兄弟はいなくて、代わりに支えてくれる仲間がいて。だけどそれ以上に強い、運命的なつながりを持った相手――ずっと探していた誰かにめぐり逢えた、ひとりじゃなかった、そんな、安心感が。
だから、このふたりが一緒にいられる場面を見てると、私も何だかほっとできるものがあったんです。たとえそこが戦場でも、刀を向け合う間柄でも。――戦い合わなければならないさだめでも。少しずつ、通じ合えているように想われて。
そして、今。
おふたりが見出された、自らが戦っていくことへの「決意」が、はっきりと耳に届きました。
「わたしは、わたしの戦いを、今という時代で戦い抜きたい。それだけだ」
「……とりあえずは大坂で暮らす人のため。こんな時代になっても、大坂で――秀頼公のもとで暮らす人々のために。いや、大坂でなければ暮らせない人たちのために、戦うことにしたよ」
決着がついたその時、自分の心もあらたまっていたのが解りました。
決めました。
物語の結末だけじゃない。
これからも続く戦乱の中で生きる、おふたりのその姿を見届けたい、と。――
ところで。最後に才蔵さんがとんでもないことを述べてくれましたよ……。
「佐助な、あいつは腕は立つが、女のことはからきしなんだ。ひょっとすると二十三になるのに」――
……佐助さん、23歳!?
そんな! そんな!
私てっきりまだ10代だとばかり想ってたのにい〜!!
しかも自分の方が年下だなんて、うっそだコレ絶対サバよんで(やかまし)
……「俺の友達」の才蔵さんは、佐久夜さんにはどう映ったのかな…。
そして、また会うであろうこのふたりの名を呟き、小笠原さんへの哀悼を終えてひとり歩き出す佐久夜さんの胸には、どのような気持ちが広がっていたのでしょうか。
もうすぐ、夜は明けて――
……いま気づいたんですけど、甚八さん、アウトオブ眼中?(ええー)
樹海での死闘の後――
江戸では大久保家家中の者がことごとく処刑されて、波乱の種は尽きたかに見えますが、当の長安がまだ生息している限り安泰はなさそうですね。
一方の大坂城でも、ひとつの不穏分子が。――
豊家の紋を記した妖香の袋の持ち主は、淀君か。重臣らか。
それとも……まさかとは想いますけど、豊臣秀頼という人物はうとぱらで変幻する「ばか殿」と「賢君」の二重人格だったりするのでしょうか。……いずれにせよ、この香袋の持ち主が大坂城内にいるということは、獅子身中の虫、これからも気を抜いてはいられませんね。「長安の手紙」もまだ完全には解かれずじまいですし……。
ていうか。
「こいつはヤバイや。ヤバすぎる」とか言ってた小助さん、何なんですかあなたその笑いよう!
ついさっきまで神経性胃炎患者そのものの顔してたくせに…ええいこのゲンキン者め…!(笑)
今回の秘巻争奪は、ただの前哨戦。
残された〈吽の巻〉をもとに、これからどんな争闘が展開されるのでしょうか。
『燦星秘伝』とは、そこにしるされた大秘事とは、いったい何なのでしょうか。
星辰はめぐり始めたばかり。
徳川方は、柳生側と本多側の表向き政的対立はさておき、佐久夜姫は決して悲しみに沈みっぱなしでいるような性格ではないので、これからも大いに剣技を披露してくれそうですね。見れずじまいの〈八重椿〉も今度は拝見できるのでしょうか。
林羅山や天海僧正、大久保彦左衛門たちくせものの動向は自分でも今後とも要注意でいこうと想います。春日局たち名前のみ出て来た人物たちもいずれ舞台へ上がるのでしょうか。
洗脳された甚八さんの記憶はどうなるのでしょう。真の自分と羅山の術との間に揺れている状態ですけど……また真田庄に戻って、十勇士に復帰してくれるといいのですが。
そして豊臣方。幸村さんは今回ほとんど謎解き役に終始してましたけど、密書もちゃんと渡ったことですし、次回からは前面に出てこられるのでしょうか。
十勇士のみなさんのこれからも気になります。
佐助さんに大活躍していただくのはモチのロンとして、佐久夜姫や才蔵さんとのカラミも大いに期待できそうですね。あと個人的には筧十蔵さんも。それに、今回見られなかった清海さんと伊三さんの兄妹っぷりも、是非!(笑)
ついでに(ついでかよ)、妖獣となった長安も、双方を想う存分ひっかきまわしてくれそうですね。
登場する誰一人として、今後も眼が離せません!
では、次の夢を見るその時まで。――まず今日はこれ切り。
| シリーズ | 田外竜介シリーズ |
|---|---|
| 出版社 | 中央公論社 |
| レーベル | C・NOVELS |
| 出版年月 | 1987/11 |
| 初出 | 書き下ろし |
| 解説・感想 | ハルキ文庫にて再刊(2000/09) |
| ジャンル | ホラー |
学園都市の俯瞰図を見るなり想いました。
「こんな奇ッ態な建物のある土地で、何かが起こらないはずがない!!」
そしたらその通り、出だしからいきなり犬神さまですよ。しかもヤバい何だか進化してるっぽいよ…!!
のっけから人を喰らってるし、その「邪悪な力」を利用しようとする存在が絡んでるみたいだし、浜崎デスクさんの言葉じゃないですけど、もうキナ臭さがプンプンしてますよね。
北海道で、一体何が起こっているというのでしょうか。……
敵のその強大さを今は知らず、単身北海道へ乗り込む田外さん。
そう、ディックさん。
『魔術戦士E』を読んだ時は、その格好の描写にどんなやくざな生活を送ってるのかしら、男やもめのひとり暮らしか、とか考えてましたけど、案外そうでもなかったみたい(笑)。
ムル…じゃなかった、ハメットくんという同居人さんがいたんですねー。
存在を知った途端、浮かんだのが、
書き損じた原稿(ディックさんは指もゴツいしそもそもパソコン自体扱えなさそうだから、手書きで済ませてると想う)とかいらない写真とか洗濯物とかが散らばってる部屋で、猫にエサをあげてるディックさん、何だかとってもほほえましいですね。あ、お名前はやはりダシール・ハメットからなのでしょうか…?
そのムルムル…じゃなかった、ハメットくんは、今回はおるすばん。(←…ん? ちょっと待て、別ものになってない!?) いいコでご主人様を待っていてほしいものです。
そして、虹子さん。だごん様作品のヒロイン! 主演作品はまだ拝読しておりませんが、「逆宇宙ハンターズ」や「マジカルブルー」などでお噂はかねがね…(平伏)。
虹子さんもついて行くわけではないみたいですけど、行きがけに手土産(?)を渡してくれたりと、後方支援をしてくれそうな予感。厄介のきわみのような相手だから、多少はその方面の知識が要りますものね。
でも――この一見何の接点もなさそうなおふたりが、どうして友人関係でいるのか、ちょっと興味があります…。
虹子さんが痴漢にあってたところをディックさんが助けた。……でも虹子さんなら、その前に自分でノシちゃいそうだしなぁ。
ディックさんがやくざさんにボコられていて虹子さんが助けた。……いやいや、ディックさんがそんな、どうしてどうして!
何か事件をきっかけに知り合って、実はお互いの住まいが隣同士だと知った。――うん、これがイチバンそれっぽいような気が。ディックさんが虹子さんのもとへ取材に行った、とか。
……って、それどころじゃないですね、ええと。閑話休題。
瀬田寒――。
早くもこの地にやってきたんですね。
先に『旋風伝』を読んでいたから、200年前に新之介さんが立っていたこの地に、200年後の今こうしてディックさんが立っているんだなあと想うと、何だか感慨のようなものが湧いてきました。用件も同じ「犬に用がある」ですし。
ただディックさん、ポイヤウンペ(少年英雄)と呼ぶには少々フケすぎていますけど……と、これは要らぬ謂ですね、失礼致しました。早くも殺し屋さんが登場したり、犬の影もちらちら見えてきましたね。でも、ディックさんにも、がんばっていただきたいものです。
そして、学園都市と近江研究室を訪ねたディックさんですけど。
犬山のおじさん(ワニ頭の杖ときくと、こせこせした某魔術師を想い出してしまうのは私だけ?)や近江局長たちと語らっている合間に改めて地図を見てみましたけど、この学園都市、ホント奇ッ態な構造ですよね。建物はもとより、地形そのものからしておかしいと想わずにはいられません。図書館を囲む道路は眼を縁取っているみたいだし、北のアイヌ塚から瀬田山にかけての道なんて、まるで毛色の模様みたいで……。
一体どういう意図があってこんな学園都市を建造したのかは私もまだ見当つきませんけど、決してデタラメではないはず。
乾さんの言によれば、
「有名な建築家と近江局長の合作ですのよ」
近江局長が関わっているというならまず疑わしいのは彼ですし、それにその建築家も一緒に怪しい事になってきますね。学園都市建設を再計画した殺された犬塚も、直接的にではないかもしれないけどどこかで一枚かんでいるのかもしれない。作中、それらが明るみに登場するかはまだ解らないものの、とりあえずはチェックをいれておきましょう、と。
それにしても……
……気に喰わない。
なーんか、気に喰わないんですよね…。
犬塚・犬飼・犬山・犬丸・乾――これだけ「犬」の人が集まっている。それも学園都市を中心に。そして同時に、みなさん今回の事件には遠かれ近かれ、何らかの形で関わっている人ばかり。これが果たしてまったき偶然なのでしょうか。
む〜…。
――そういえば、ディックさんが近江局長に抱いた印象の中に、お懐かしい人についての記述が含まれていましたね。一度だけの接触でしたけど、某Hさんと見知りあったあの事件から、もうけっこうな時間が経ってるんですね――。
この間に、ディックさんの狂笑癖も完治したみたいですし、そしておそらく数ヶ月後には、猛獣ハンターとしての某Sさんを紹介した記事を探し当てたりもして。……Sさん、ディックさんからのご伝言を覚えてらっしゃるでしょうか。(←静子さん、ちゃんと伝えてくれましたよね?) お互い忙しい身ですからなかなか難しそうですけど、いつかこのふたりのツーショットは実現してほしいなあと想うです。できれば、スニーカーのお坊さんも交えて(笑)。
ついでに5年後には――おっとっと。これはまた、後の話ですね。
警備員室にて。
……。
……。
えろを読むのはやっぱり赤面しつつになってしまいます。キライとかニガテというのではないんですけど、何だか恥ずかしくって…。作品の根幹に関わる、これも大切な部分なんだからと、ちゃんとひと通り読みはするんですけど(苦笑)。
ここで想い出された会話。
「近江先生は、実際のお齢より遥かにお若いですね。どうみても四十代前半というところだ。何か秘訣でもあるのかな」
「さあ、どうですか……でも、本当にお若くって……」
ああ、そういう事……。
ここでいかにもな警備主任さんが登場して雰囲気をまぎらせてくれたのは助かりましたけど、
「あれは……ちょうど七八番カメラが故障中で……」
ふーん…「ちょうど」、ね……。
それに、近江研究室はモニターしなくてもいい、と。
やっぱり、ナットクいかないなあ。
で、この隙に犬山さんご一行は見逃されてしまい、そして翌朝の惨劇。犬山さんとお酒を酌み交わす時のディックさんを見られなかったのはちょっと残念です…。でも、偶然見逃されてまんまと侵入を許し、犬神さまも目的(そう、目的)を遂げたら消えるというあたり、やっぱり作為的なものを感じますね。
犠牲になったのが、まず通りすがりの人とかじゃなくていかにもな「すけべじじい」や「そのスジの方がた」だったのには、客観的に安心してしまいました。犠牲者への同情心などをヌキに、犬神さまの今の状態と一緒にアレっぷりを落ち着いて(?)再確認できましたし。作品が変わってもやはり凄まじいですね。およそ人間が太刀打ちできるような相手でないことが、読むたびに今さらのようによく解ります。
今までも充分に酷かったですけど、これからはそれ以上に酷い事になっていくはずで……いい人ややさしい人たちも犠牲になり、何の関係もない人たちまでもがたくさん屠られるのかと想うと――……。
ディックさん、どうか早く、事件を解決してください…!!
――で、その、当のディックさんはといえば。
いつの間にか佐々木さんとお友だちになってしまってましたけど、タクシーの運転手さんに続いて佐々木さんまでおかしなことになって、しかもばっこんばっこん事故りまで――ほらね、ああなっちまう!――間一髪で惨事からはまぬがれましたけど、ヘタすれば大事故ではすまなかったはず。……そう考えると、薄ら寒いものが背筋を走ります。
でも、「呪われた地」でここまで呪われてしまうといいかげんいやになるのが常なんでしょうけど、ディックさんはいやになりながらも、それでもまだ立ち向かっていくんですね。そのタフガイっぷり、心から尊敬します。
ところで佐々木さんからは、その近江局長が魔術師という情報まで出てきましたし(しかも所属はあのO∵D∵T∵!!)、学園都市に至る道路――棺桶道路にも小細工が仕掛けられていたそうで、いよいよ陰謀と魔術の気配が濃厚になってきましたね。被疑者どころかもう充分な容疑者ですよ。
――ふとおもったんですけど、近江の(←呼び捨てとる)名前って、「近江泥棒伊勢乞食」から取られたのでしょうか。イエ、こずるい奴みたいですから、なんとなくそうなのかなあと。
でも、おふたりともとりあえずは無事でよかったです。佐々木さんも飲み屋さんに顔を出すころには、三波さんと渡り合えるくらいには復活しているみたいでしたし(笑)。
翌朝。
朝一番でどんな凶報が入るのかとグッタリしそうになりましたけど――
あ、あれ…? めずらしく何もナシ…??
イエ何事もない方がそれはもちろんいいに決まってるんですけど。でも…おかしい。黒犬獣が人を襲わずに失せるなんてまずないですよね…。今サラ「集団幻覚」なんてありえないし、パフォーマンスなんて必要もないし。とまれ、先の犬山さんご一行の件と比較してみると、この点がまず違いますよね。あ、あと違いといえば、乾さんが……こほん、いたしてたのが、近江ではなくディックさんだった、というくらいでしょうか。
じゃあ今回は出現するだけに終わったのは、乾さんの体験したのが魔術的儀式じゃなくて、ええとその、つまりいわゆる「和姦」だったから…? それとも警備カメラに映っていたあの日あの時あの行為は性魔術の儀式だったとか…。
ところで虹子さん、次から次へとディックさんにお役立ちですね。
旅立ち前には雑誌を手渡し、電話で訊けば黒犬獣について調べ、頼めば『魔法大辞典』を送ってくれたり。(←しかも、速達で!)
「虹子さ〜ん…」
「しょうがないなぁー田外ちゃんは〜」(ぱらららっぱらー)
……そんなまるでどこぞのネコ型ロボットじゃあるまいし!(笑) イエでも実際、虹子さんってスゴイ人だなあと想うです。占い師としてのカンとともに。
これは、ディックさん、おみやげのカニ缶は何があっても買わなくてはですよね(笑)。
そういえば黒犬獣についての解説は『魔犬召喚』にも出てましたけど、講釈師が専門家(?)であるせいか、前よりも関連事項が増えていましたね。重複している部分があっても、飽きずに読めました。
そして犬飼先生のもとを訪れるころ、近江の本日の講義と実験が始まったワケですが。実験の過程を見ているともう限りなくクロですね。こんな腐った性根をしたやつが人畜無害だったらヘソが茶を沸かしますよ!
…実は最初、「乾さん=地獄の乙女」説というのを考えていました。
乾さんがアレな事をされている時に限って現れるんだから、近江局長や手近な男をたぶらかしてそういう行為に及んでいる、とか。シケムくんのお姉さんみたいに、何か巫女としての能力・資質を持っていて、黒犬獣を召喚しては使役していたのかなあ、とか。事実、ESP能力者でしたしね。自分に危害を加えないのは、お嬢さまと番犬みたいなものだからかしら、とか。
……でも、それはないですね。自分が傷つく事で――自分を傷つけてもらう事で相手の心を満足させるなんて心の遣い方をしている乾さんにはまずありえないような。そもそも餌と見れば見境ナシに喰いまくる犬神さまを見れば、それはまずありえないことがよく解ります。(あいつアホだしなー)(←「あいつ」!?)
てことはやはり近江なのか。
佐々木さんの情報では精神病理学の研究と一緒にソッチ方面の事にも精通しているみたいだから、これまでの過程から観察すると彼奴はやっぱり性魔術師で、だったら乾さんはさしずめ、犬神さまを喚ぶために潜在能力を買われて仕立て上げられた巫女の役、ってトコかしら…?
ああまったく、これだから黒魔術師なんて嫌だよね! さっさと墓穴に入れって感じだよね!!
乾さんのESPを発展させて、肉体的精神的に追い詰められた時に黒犬獣を喚べるように彼女を飼い馴らすだなんて、とんでもない事するよ、ったく…。
実験、それも魔術儀式が重ねられたものにつき合わされ――んん? 乾さんが追い詰められた時に犬神さまが現れるって事は――……
げっ。……
まさか学園都市に犬神さま自らおいでになるとは……眼が合ったディックさんの驚きようは私なんかの比ではなかったと想います。
殺された犬たち、犠牲になった犬飼教授、飛び散った死体、そして黒犬獣――
捕まる 怖い 喰われる 犬 血 獣 化け物 逃げろ 死
――危険!! 危険!! 危険!!
それから起こった事は、もう凄まじいどころではありませんでしたね。引き込まれながら、想い詰めたようにディックさんを見守っていました。展開がとても迅速なものだったのと同時に、自分自身、何だか、書面から眼を上げればそこに黒犬獣がいるような圧迫感があって、ずっと眼が離せずにいました。
あの世への入り口が――黒犬獣の口が自分を呑み込む前に、ディックさん、幸い転がってきたドルメンのかけらに救われて、済んでのところで事なきを得ましたけど…だ、大丈夫なのでしょうか……。
今度黒犬獣が出現しようものなら虹子さんの占いがいよいよ的中してしまいそうで、そうならないように祈りつつ、戦々恐々としています……。
その黒犬獣もまだ不完全状態とはいえ、出現するたびに凶暴さも残忍性も度合いを増してきて。完全顕現が近づきつつある証拠ですね。ヤバい…ヤバいよ…!!
そして、疾風迅雷な出来事の後で――……。
まわりを見渡してみれば、うわあ何てひどい有り様ですか。
張本人の近江はといえば後始末もそこそこにものまね話芸(?)を披露し、乾さんと昼メロまがいの行為に没頭して。もう、唾棄したくなりますね。
そしてとうとう、犬丸さんまで……。
犬塚、犬山、犬飼ときて、これでとうとう4人目。これはもう、偶然ではないですね。この「犬」殺しにも、何らかの魔術的意味合いが含まれているはず。そこにどんな象徴が込められてるのかは、私には解らないけれど――。
その犬丸さんが犠牲者になってしまう数時間前。
佐々木さんと開かずの間で目撃したものは――!!
「黒犬獣を使役する大量殺戮」「奇構造の学園都市」「マンションの空き室」「瀬田寒という土地」「放置されたままの暗黒街」……この〈装置〉をなかだちに、すべてが直結していたんですね。こうして、一見何の脈絡もない、メインからは逸れているように想われていた出来事のピースが、ほんの数行ですべてかちりと嵌まり込む行には舌を巻いてしまいました。黒犬獣の騒動によって見えなくなっていた共通の意味が見え、俄然、興奮の度合いが増してきました。
でも、心の一方では、それどころではありませんでした。
人間生きてれば、誰だって喜怒哀楽、はしゃいで喜んだりもすれば、時には嘆いたり悲しんだり、不安になって恐怖を感じたりするのは当たり前で、みんなとても大切な心なのに、それを自分勝手な目的のために利用するなんて…。
不安材料をどんどん与えて、肥大させて。募りつのったそれらを吸い上げて。
こんなの、実験動物どころか、まるで飼い殺しの家畜じゃないですか……何て酷い事を…。
そうして集められた〈負の感情〉は、おそらく媒体である乾さんの一身に伝導されて……この場にいたらきっと、はらわたがちぎれそうな想いになっていたかもしれません。
そして浮かび上がった、謎の機関。
陸上自衛隊民族遺産管理室。――
ディックさんと佐々木さん、おふたりの調べ上げて持ち寄った材料が照らし合わされて、ついにひとつになるんですね。待ってました! 『魔犬召喚』の時もでしたけど、こういう「話し合い」の方法は何だか好きなのです(笑)。
ただ、ひとつ気になった事があるのですが。たしか警備用のテープって、5倍速くらいで録画されているから、一般の機器では再生できないと聞いたことがあるのですが……。
ま・まあ、細かいことは気にするねぃ、ってヤツですね(笑)。警備会社とかにもよるのでしょうし。
しかし…
ビデオのアレは見た途端「何事!?」とせきこんでしまいました。「魔術で映像をかき換えられた!!?」と(…ゲボ)。どうやら魔術師の悪趣味な冗談ではなく、13万の裏ビデオでもないみたいで安心しましたけど……。
でも、ほんとアセりました。見開きの効果もあって(苦笑)。
そして、とうとう実証されてしまったんですね。今回の一件における、乾さんの役割が。
彼女が性魔術の「道具」だった――説として持っていても、あまり考えたくなかった結果でした。
しかし、ディックさんの行動は、「実証」というよりは「暴露」に近いような。……
いくら「不器用」ってつけばカッコよく取られるような当世でも、ディックさんのとった方法はたいていの人はまず顔をしかめることと想います。でもディックさんは、こういう風にすることでしか証明ができなくて、当人や周りの人から誤解を受けたり、そしられることも承知で、ああした行為に及んで。
たとえ、乾さんに、残酷な事実を突きつけることになってしまっても。
ディックさんきっと、愛情とかではなくて、何ていうかもっと人間としての基本的な感情から、乾さんを救いたいと想って。
肩を抱いたとき、そんなディックさんのやさしさが、何だかとても愛しいものに感じられました。
ただ。
あー、ビデオ、やっぱりおしゃかになってしまったんですね…(痛…)。
いちどはそういう事態に遭遇してるんだから、黒犬獣が出てきたらどうなるのかそのあたりは想定しておいてしかるべきだと考えるのですが。それどころじゃない雰囲気にしたって、ちょっとせっかちじゃなかったか、と想わずにはいられないのですが。
もちろん、証拠提出を求められてハイそうですかと出せるようなものではないけれど……。
………。
……ディックさんのやり方にはやはり異を唱えるべき?(←何を今サラ)
まったく…「あらゆる魔術はすべてまったくの偶然と言う形で効力を発揮するものである」か……(うぬう)。
さらに、乾さんは行方不明、おまけに高部さんも凍死体になって発見されるなんて――。
折りしも近づく研究発表の日。うう、さらに酷い事が起きそうな予感がしてきましたよ…。
ただ、乾さんは少なくとも守れる余地があったのではないかと想うのですが。
だって、敵は予想以上にとんでもない相手――政府ぐるみで、警察を丸め込むほどの――と判っているんですから、多少の心配りは必要だと想うのですが。団体で行動するとか。(←例えそうでなくても、女性の夜の一人歩きは危険なのに…) コレはちょっと失策だなあ…、と想わずにはいられませんでした。
「田外です。……北海道に来てから、犬に好かれてしまいました」
「田外です。……逢って間もない左翼記者に梅毒病みと想われたとです」
「田外です。……いくらSFとSMをごっちゃにしても、ビデオとロデオは間違えません」
「田外です。……ススキノの煙が、眼にしみます」
イヤイヤそれどころじゃないから!(←てゆーか、何させてんだ)
――ディックさん、果たして本当に、無事に「生き」て「帰れ」るのでしょうか。
とうとう公開実験――近江との直接対決が迫ってきましたけど、その前に明かされたもうひとつの「解答」。犠牲者の名前などの犬がらみには、こんなウラがあったんですね。仏教で言うところの「偶然の一致」で済まされはしないだろう、と想っていたので、ようやく腑に落ちました。
そして、犬塚・犬山・犬飼・犬丸ときて足りない「犬」はどうするんだろうか欠員補充するのかしらとか想ってたら、何てご丁寧な…。犬池のおじいさんばかりか、よりにもよって権力のイヌですよ! イヌはイヌでも狗だよそんなさぶいギャグはいらないよ!! ギャグで殺されたSPはたまったもんじゃないっつうの!!
ああもう、何だかとんでもないことになってきてしまってますね。近江によって公開儀式の「場」は負の力で清められて、そこに黒犬獣が降って現れて。その近江はもはややる事なす事せくはらだしぶったまげキモいし。(←何つー表現…)
臨界点を超えてとうとう発狂してしまった乾さん。近江によって魔術道具に仕立て上げられた末、こんな事になるなんて……。
〈血と炎の供犠〉によって大量の生贄がセタ・サパハの黒犬獣に捧げられようとしている最中にあって、「好き……お願い、抱いて……」と抱きついてくるその弱々しい姿が、痛くて仕方なかったです。
乾さんをかかえた時、ディックさん、どんな気持ちだったんでしょう。
読んでいて、かかえる時に手に込められた力が伝わってくるような気がしました。……
しかし、ヒーローばりに登場するディックさんは、何だかカッコよかった…!(←はっきりと言い切らず「何だか」としているのがミソ)
炎のような怒りとともに、近江を文字どおり蹴飛ばして、歯すら叩き折って。その様がとてもよくイメージされるだけに、ディックさんのお姿がやたら強調されて仕方ありませんでしたin my 脳内。それに「一発逆転の秘策」が、単純だけど何かいいなあ(笑)。
「理性的なものだけが現実的だっていうぜ」
こんな下らない事はさっさと終わらせてほしい。――そう想いつつも。想いつつも。
チューインガムみたいにくちゃくちゃと近江の身体を噛みしだいている黒犬獣を想像して、恐怖すら恍惚に変わってしまう死に様の凄まじさに、身ぶるいせずにはいられませんでした。眼が離れませんでした。
その、最後の印象に……。
……。
乾さん、もとに戻れるでしょうか。健全な身体に戻れるでしょうか。……
苦しむ必要のない事に、あれだけ追い詰められてきたんですから、どうかまた、きっといつか、立ち直ってほしいです。
一応、まずは幕は閉じましたが、これはまだ、これから続いていく物語のほんの始まりなんですよね。
善しも悪しも見えないままの終わりから、やがて上がる第2幕。
「民族遺産管理室」とは何のための機関なのか?
そこにO∵D∵T∵はどう関わってくるのでしょう。
儀式前に電話をかけた「御前」とは何ものなのか? 彼らの大いなる目的は?
さまざまな謎をはらんだまま、物語は次の『天外魔艦』へ――。
活躍のメインがディックさんにしぼられるのは当然として、今回他にも登場してきた人・これから絡んでくる人たちも気になりますね。佐々木さんと三波さんは、またセットで登場してくれるのでしょうか…。会えばけんか腰なおふたりが見ていて好きなので!(笑)
虹子さんはアドバイザー役なのでしょうか? 今回は電話と記憶のむこうで脇役に終始してましたけど、自分も取材した近江の正体をディックさんから聞かされた時は、どんな反応をしてたのかしら? やっぱりクールなのかなあ。(←カンのいいお人ですから、うすうす察知していたのかも) 『神蝕地帯』はメイン話になりそうなので、その間にどういった役割を務めるのかも興味深いですね。
「御前」はきっと騎西十三郎だな。それこそ、アレキサンダー・メルクリウス級のヤツなんだろうなあ。
浜崎デスクは――……イエ、何でもありません。(←『虚空聖山』の笠井社長を想い出しました…)
都英さん、は――……ちょっと期待しすぎですか?(←イヤ、シリーズ違うし)
『魔犬召喚』の松井さん神波さんは、どこかで客演登場してくれるといいなあ。
「魔術戦士」以来のオカルト・シリーズなので、少しずつ楽しんでいこうと想います。