那須弘平
法曹界の固定観念に斬りこむ、熱き理論派
なす・こうへい
出身
- 1942(S17)年2月11日生
- 長野県 / 東京大学 法学部卒(1964)
- 弁護士 (第二東京弁護士会) [得意分野:民事・商事]
- 花王(株)監査役
- 弁護士会の中では「実務慣行の改善運動」を主導した。 1980年代から訴訟遅延の問題を取り上げ、証人尋問などをまとめて行う「集中証拠調べ」の導入を提言している。
略歴
- 1966(S41)【24歳】 司法試験 最終合格
- 1969(S44)【27歳】 司法修習修了(21期) / 弁護士登録
- 1971(S46)【29歳】 群馬法律専門学校(現 群馬法科ビジネス専門学校)校長(-2003)
- 1987(S62)【45歳】 第二東京弁護士会 副会長
- 1988(S63)【46歳】 民事訴訟改善委員会 委員長 / 日本弁護士連合会 常務理事
- 1993(H5)【51歳】 研修委員会 委員長
- 1995(H7)【53歳】 仲裁センター運営委員会 委員長
- 2004(H16)【62歳】 東京大学 法科大学院 客員教授 (法曹倫理)
- 2006(H18)【64歳】 最高裁判所 判事 (第三小法廷)
過去のおもな業績・発言
- 2005/05/19
経営破綻した旧 日本長期信用銀行(現 新生銀行)の1998年3月期決算が粉飾かどうかが争われた民事裁判で、旧長銀経営陣側の代理人として、“違法性なし”という結論を勝ち取る。
- 「旧大蔵省が認めてきた方法で会計処理をしてきたとする従来の主張が認められた」とコメント。(読売新聞 2005/05/20朝)
- 逆に刑事裁判では証券取引法違反で有罪判決が出ている。
- 不良債権処理について、旧大蔵省が見て見ぬふりしてきた甘い基準が、厳格な新基準に切り替えられたのが1998年の段階であった。その新基準が当時、旧経営陣に周知徹底されていたかどうかが争点。民事と刑事で結論がわかれた要因である。
おもな持論
- 「法律のひろば」 2000年9月号より
ダイナミックな自然科学の進歩に力負けしない弁護士や裁判官を養成することは、どうすれば可能になるのだろうか。 それとも、そのようなことを望むこと自体無謀な企てなのであろうか。 それにしても、せめて講義の進め方ぐらいは、自然科学の手法を応用できそうなものだ。 司法試験の受験予備校では、かなり進んだ手法が採用されていると聞くが、大学の講義の実態はどうなっているのだろうか。
- 著書「民事訴訟と弁護士」(信山社・初版2001年)より
和解は、裁判所が考えるほどには当事者に歓迎されていない、と言ってよい。 勝訴が見込める場合でも、遅滞した審理にしびれを切らして、やむを得ず和解を受け入れることは、よく経験することである。 また、敗訴の可能性が強い場合に、判決まで粘るという姿勢を示すことによって、相手方(すなわち勝訴を期待できる当事者)に、なお相当の日時と労力を必要とすることの無言の圧力をかけて和解に応じさせることも無いではない。 このような場合、和解は、判決に比べて、正義の量をそれだけ目減りさせて紛争を解決していることになる。
- 書籍「民事訴訟の過去・現在・未来」(日本評論社・初版2005年)より
病院の改革に患者がイニシアティブを取るかというと、それは期待できない。
(※中略)
それは民事訴訟でも同じで、訴訟になる前は、誰も自分が訴訟事件に遭うとは思っていないし、訴訟手続きに巻き込まれたときは、それに対処するのが精一杯で、終わったらなるべく早く忘れようとする。 だから、利用者が自ら改革に立ちあがることは期待できない分野である。 そうすると、誰が改革をやらなければいけないかというと、当事者に一番近いのは弁護士であって、弁護士が訴訟手続を改革しなければならない。
- 第二東京弁護士会80周年記念シンポジウム『法科大学院教育の現状と今後の課題』(2006/03/04) … ブログ「司法試験受験生Yuichiroの早稲田日記」(※現在閉鎖)中エントリより一部引用
☆那須弘平・東京大学法科大学院教授―弁護士
(法科大学院の実務教育の意義に触れ)
「理論と実務の架橋で終わらしたら駄目。」
「理論と実務の融合、すなわち科学反応による新たな学問の形成に期待。」
「要件事実論。法曹倫理においてこのような進歩が認められる。」
(自らが増員論者であるとしながらも)
「弁護士はプロフェッションでなければならない。」
「教え子には受かってほしいが急激な増員は質の低下を招く。」
「対応策としては、法科大学院自らの選抜意識だ。」
「不適格者には1年目で引導を渡すべきだ。」
「ときに退学させる強い態度が各法科大学院に必要だ。」
- 読売新聞「顔」欄 (2006/05/26朝)
- 「法律家には、物を言うべき時に言い、行動すべき時にはする責務がある」 「弁護士の仕事は、依頼者と誠実に向かい合い、その言い分の中にある真実や正義をくみ上げること」
- 「民事訴訟の最大の問題は、裁判が遅いこと。このままでは国民にそっぽを向かれてしまう」
最高裁判事になっての抱負
- 就任会見にて
- 「依頼者の話に耳を傾けて法廷で主張するのが弁護士の仕事。弁護士時代に培った技術や能力を生かしたい」(共同通信)
- インタビューにて
- 「裁判所を外から見てきた人間の感覚を生かし、工夫と改善のエネルギーを吹き込みたい」(読売新聞「顔」欄 2006/05/26朝)
裁判員制度についての考え
- 最高裁判事 就任時会見にて (2006/05/25)
- 「言葉だけでなく結論も含め、周囲の関心が薄れないうちに、分かりやすい裁判をすることが大切だと思う」 「そうした裁判を心掛ければ、国民の関心も高まり、支援も得られるのでは」 「義務ではなく、権利を実行する機会と分かってもらえたら」(共同通信)
- 「国民が自ら持っている権利を実現、実行するチャンスが来ていることを分かってほしい」(時事通信)
- 「大変よい制度だと思っている。義務ではなく権利を実現するチャンスとして国民に分かってもらうことが大切」(毎日新聞)
プライベートの横顔
- 読売新聞「顔」欄 (2006/05/26朝)
民俗学や歴史が好きで、道祖神(どうそじん)や庚申塚(こうしんづか)の研究をしていた」という学究肌だが、大学時代には弓術部で主将を務めたスポーツマンの一面も持つ。 週末の早朝、自宅周辺を8キロほど歩いてリフレッシュするのが楽しみ。 ここでも、「同じルートは通らず、新しい道を探している」という。
以下、 最高裁判事 那須弘平 による判断
反 対 意 見
意 見
補 足 意 見
2006/10/04
2004年7月11日の参議院議員選挙で、鳥取県の有権者が持つ「1票の価値」が、東京都のそれの5.13倍だったことは、「法のもとの平等」が守られておらず憲法違反だ、という訴え
⇒ × (大法廷15名で、10対5)
【 判決理由 (かなりの意訳) 】
- 最高裁が2004年1月に合憲と判断した、2001年の参院選での「1票の格差」は、最大5.06倍だった。それと大して変わってないじゃないか。
- 2004年1月の大法廷判決から、このたびの選挙までは、約半年しかなかった。 「1票の格差」を修正するためには、法律を改正しなければならないが、それだけの十分な時間はなかった。
- それでも、判決からまもなく参議院では、定数の改善について話し合っている。また、選挙が終わった後とはいえ、公職選挙法の改正によって、いったん最大格差は4.84倍まで縮まった。
- そういった参議院の努力は買いたいので、裁判所で憲法違反を宣言したり、選挙のやりなおしまで命じたりするのは心苦しい。
- ただ、これからも格差をできるかぎり縮める方向で、選挙制度の枠組みから変える可能性まで含めて、国会で議論しつづけてほしい。
【同じく「×」の多数意見についた那須判事の『補足意見』】
- 参院選では、選挙区だけでなく、比例代表での票もある。 投票価値を論じるときは、比例代表の部分も取り込んで検討する必要がある。
- その前提で試算すると、最大格差は2・89倍となる。
- 比例代表を含めた最大格差が2倍を大きく超えれば、違憲状態と判断される可能性も格段に高まる。
- しかし、格差改善に向けた国会の努力を考えに入れれば、今回は、立法の裁量権の範囲内に辛うじて踏みとどまっているといえる。
◇
- 判決全文:PDF(最高裁公式)