議員定数不均衡
参議院議員の選挙
行われるのは3年に1度。 しかも『夏(6・7月)』に行うのが慣例です。
衆議院と違って、内閣が時の政治的な判断で宣言する「解散」というシステムがありません。
なので、参議院議員の選挙は定期的に行われます。 次回は2007年夏です。
参議院議員全体(242人)の「半分」について、入れ替え戦をします。
衆議院と違って、全員をいっぺんに総入れ替えする「総選挙」ではありません。
選挙で半数(121人)を改選したら、その3年後に、もう半数を改選します。 それが交互にくりかえされるのです。
したがいまして、参議院議員の任期は6年です。
参議院には、国民の意思を、より安定的に国政に反映させるねらいがある、といわれています。
くわしくはWikipedia:参議院議員通常選挙を。
「議員定数不均衡」って、なんだ?
議員定数の不均衡とは、有権者一人ひとりの持つ票の「価値」が、地方ごとに差が生じていて、その差が社会的に無視できないほど大きくなっている状態です。
国家によって、国民は平等に取りあつわれるべきだ、という建て前(法のもとの平等…日本国憲法14条1項他)に反することになるので、憲法上の問題になります。
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もし、札幌の牛丼屋で、「大盛り1つ」を注文したのに、北海道での大盛りは、東京や沖縄でいう並盛りサイズと同じだったとしたら……。
なのに、牛丼チェーンが全国一律の代金を取るとすれば不公平です。 北海道のお客さんが説明されて納得できるような、よほどのしっかりした理由が必要ですよね。
ただ、「票の価値の不平等」といわれても、とてもわかりにくいものです。
投票所で渡された投票用紙をいくら見まわしてみたところで、何の変わったところも見つかりません。 価値といったって、別に値札が付いているわけでもありませんし。
「1票の価値」は、計算上の抽象的な話です。 だから、価値の「格差」のイメージも持ちにくいのです。
だけど、ちまたのミュージシャンがよく唄ってませんか。 「目に見えないものほど、大切にしたい」なんて。
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たとえば、学校のクラス40人で学級委員長1人を選ぶ選挙。
全校生徒1000人で生徒会長1人を決める選挙。
…… これらで票の価値の差が問題になることは、まずありません。
それぞれ、まったく別の選挙ですから。
では、そのクラスの担任が校内でやたら実権を握っていて、そのクラスの学級委員長だけが、生徒会長と同じ権限を持ってしまうとしたら、どうでしょうか。(ありえませんが)
そうなると、学級委員長選挙での1票の意味が、がぜん重みを増してきます。
1000人の「有権者」がいる、生徒会長選での過半数は501票ですが、学級委員長選挙では、たった21票取れば完全勝利できてしまいますから。
そのとき、学級委員長選の1票の価値は、生徒会長選のそれをはるかに上回り、「25倍(1000÷40)」にもなります。
加えて、そのクラスの生徒だけが、実質的な生徒会長票を2票持ってしまっていますから、「数の平等」にも反するわけですが。
国政選挙 票の『数の平等』
日本全国、それぞれの有権者には「2票」ずつが与えられます。
- 選挙区での票 … 地元から立候補した人たちから1人を選んで1票。
- 比例代表での票 … 政党(あるいは比例名簿に載っている候補者個人)から選んで1票。
選挙管理委員会の方が手続きミスでもしない限り、そういった、一人あたりの票の枚数に不平等が生じることはありません。
- 「選挙区」(※146名の議員を選出)
- 「比例代表」(※96名の議員を選出)
2004年 夏の参院選 票の『価値の不平等』
最大格差 …… 5.13倍 (鳥取県 > 東京都)
一般に議員定数不均衡の問題は、選挙区のほうで出てきます。
比例代表は、いわば日本列島全体が丸ごと1つの選挙区ですから、どこに住んでいるかによって、票の価値に差が生じることはありません。
一方で、地元選挙区は、地方ごとに有権者の人口が違います。 なので、当選して参議院議員のイスを勝ち取るには何票とればいいのか、選挙区によって差が生じてきます。
そういった候補者にとっての不平等の裏返しで、有権者が持っている1票の価値にも、選挙区ごとに違いが出てくるのです。
1票の価値は、当選者枠の数あたりの有権者人口で考えます。 したがって、都市部の選挙区ほど、票の価値が低くなる傾向がみられます。
2004年の参議院選挙で、鳥取選挙区の1票の価値は、東京選挙区のそれの5.13倍に開いてしまいました。
それだけでなく、東京選挙区の2倍以上の投票価値になった選挙区は、全国で31にものぼっており、約4700万人に、実質1人2票以上が与えられていた計算になります。
具体例
とはいえ、計算の話だけでは抽象的で見えにくいので、以下のようなデータも示します。
- 2004年参院選 当時
- 選挙区選挙で、最も得票数が少なかった当選者
鳥取県 田村耕太郎候補(自民党) … 15万1737票
- 選挙区選挙で、最も得票数が多かった落選者
大阪府 辻元清美候補(無所属) … 71万8125票
秘書給与流用事件で有罪判決を受けた逆風もなんのその、地元での強さを見せつけた形の辻元さん。
しかし、次点にとどまる憂き目に遭ってしまいました。 鳥取の田村候補が、自らの5分の1ほどの得票で当選を果たしていることを客観的に観察したなら、理不尽な結果に思えます。
ただ、ご本人は「世間はそう簡単に許してくれないな」と、運命を感じていたかもしれません。
まぁ、翌年の衆院選で当選なさってますけどね。
議員定数不均衡 改善するには……?
選挙区選挙の不均衡状態を修正するには、どうすればいいでしょう。
- 選挙区の有権者人口(あるいは区割り)を調整する。
- 選挙区ごとの、当選者の枠(議員定数)を調整する。
……この2つのアプローチが考えられます。
1票の価値が高すぎるなら、選挙区を広げるか、当選枠を減らせばいいのです。 価値が低すぎるなら、その逆の対策をとります。
しかし、
◆ 日本国憲法 第47条
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
選挙区割りや当選者の枠などは、法律(公職選挙法)で定めます。 では、法律は誰が決めるのかというと、選挙で選ばれる側の立場の国会議員です。
ですから、議員のセンセイたちは、自分たちに都合のいいように、次の選挙で勝てるように決めたい、と考えるのが人情かもしれません。まるで、入学試験や資格試験のルールを受験生たちが決めるかのような、「お手盛り」の可能性が指摘されています。
他に打つ手は無いのでしょうか。
法律の定めといっても、憲法に違反していれば無効です。 なので、1票の格差は「法のもとの平等」という憲法の理念に反するのだと、裁判所がビシッと判断してくれれば、議員定数不均衡の問題に風穴を空けられます。
しかし、最高裁判所の裁判官は、内閣によって任命されます。 自分たちを司法権の頂点という高みに昇らせてくれた内閣には、足を向けて寝られません。(たぶん)
日本の国政は、国会議員と内閣が密接な関係にある「議院内閣制」が採用されていますので、国会議員にとっての不都合は、内閣にとっても不利益といえます。
最高裁判所の裁判官とは、政権与党の国会議員が選挙で危なくなるような判断をしにくい立場になっているのです。
農村部では自民党が選挙で強く、地方票の価値を高いままにしておくのが自民党議員にとって良いことでしょうから(ちなみに公明党は、比例代表制で目を見張る強さを見せます)。
参院選に特有の問題点
もう一度、議員定数不均衡を改善するアプローチについて挙げてみます。
- 選挙区の有権者人口(あるいは区割り)を調整する。
- 選挙区ごとの、当選者の枠(議員定数)を調整する。
まず、選挙区の区割りを変更できないのか、考えてみます。
参議院の選挙区は、全国に47。 各都道府県に1つおかれています。 都道府県の境が、そのまま選挙区の境目になっているのです。
“東京○区”のように、都道府県をさらに細かく分けている衆院選の選挙区とは違いますね。
参議院議員は伝統的に「自治体の代表」という意味づけがされているのです。 この「都道府県単位での選出」ということに重要な意義を見いだすなら、参院選の選挙区を広げたり狭めたりすることはできなくなるわけです。
近ごろ、民主党議員を中心に「人口の少ない鳥取選挙区を、となりの島根選挙区と併合させてみては」という提案がなされています。 しかし、複数の自治体にまたがる選挙区は、憲法が定める「地方自治の本旨」(92条など)に反する、などという抽象的な理由づけを持ちこんで、これに反対する意見が大勢を占める模様です。
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選挙区をいじれないのなら、当選者の枠(議員定数)を変えればいいように思えます。
ただ、冒頭でみましたように、参議院議員の選挙は「半数改選」です。 そこで、全国をあげて選挙を行うなら、選挙区ごとの定数は半分にわけられるように、偶数でなければならない、という発想が今は支配的です。
というわけで、「定数2」では少ないと判断された選挙区なら、次は「4」に増やすのです。 「定数2」が多すぎたとしても、それ以下には減らしません。 参議院の選挙制度を考えるうえで、定数の微調整は避けられているのが現状です。
しかし、定数が奇数の選挙区があったとして、なにか具体的な問題が出てくるでしょうか。 特に混乱が生じるようには思えません。
奇数だからといって、まさか、候補者をノコギリで半分に切るわけにはいきませんが、「定数3」の選挙区では、2人の改選と1人の改選を交互に繰り返すとか、「定数1」の選挙区であれば、参院選の実施は6年に1度になるとか。 そういう措置をとっても憲法には反しません。
そもそも、東京都の「定数8」(2007年現在)が少なすぎるのかもしれませんね。
都会に住む人間は、生活面でいろいろ便利な恩恵を受けてるんだから、投票価値の低さぐらいガマンしろ、という政府の意思なのでしょうか。
もちろん、都会に住んでいて困ることもたくさんあるのですから、それとこれとは別の問題です。
逆転現象
「人口の少ない選挙区のほうに、なぜか定数が多く振り分けられている」という選挙区間の関係が、一部にみられる場合があります。
これも、参院選での選挙区割りや定数の振りわけの調整が、分量的な面で難しい作業だから起こる現象だとされています。